ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義』:グローバル化の時代は終わったのか?

大窪善人


時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか
ヴォルフガング・シュトレーク
みすず書房(2016-02-20)

 
トランプ次期大統領が早くもTPP離脱を宣言し波紋を広げています。今年6月の英国のEU離脱表明以来、世界中で反グローバル化の動きが広がっているさなか。今や「グローバル化」は時代遅れなものになったのでしょうか? 

ヴォルフガング・シュトレークは「イエス」と答えます。

朝日新聞にインタビューが掲載されていますが、おもしろいのは、彼がトランプ現象や「ブレグジット」を単なるポピュリズムではないと言っていることです。

(インタビュー)グローバル化への反乱 社会学者、ヴォルフガング・シュトレークさん【朝日新聞】

現代資本主義の危機

まずはおおまかな内容を紹介しましょう。

本書は、世界的ベストセラーになったピケティ『21世紀の資本』と同時期に出版され(邦訳も同じみすず書房)ドイツをはじめ各国で大きな反響を呼んでいます。その理由は、現在のグローバル化した経済システムの分析を通じて、経済危機に対する一つの処方箋を示しているからです。

シュトレークは、社会学理論と各国の経済指標を使いながら、現代資本主義を3つの危機から説明します。

一つ目は「金融危機」です。1970年代以降、先進各国は金融政策(紙幣の増刷)によって高いインフレ率への誘導を行うことで、オイルショックをきっかけに生じた経済成長の停滞をなんとか乗り切ろうとしました。

たしかにインフレになると一見配分されるパイが増えたようにみえます。しかしそれは幻想で、実際には富の総量が増えるわけではありません。さらに金融によるインフレ効果は一時的なものなので、すぐにデフレになり失業率が上昇することになります。

その穴埋めをしたのは80年代の政府による財政政策です。足りない分は国債など将来の税収を担保に民間から調達します(「財政危機」)。

しかし、それでもなお財政が悪化したので、今度は負担を家計に転嫁。雇用や社会保障をはじめとする規制緩和を行いました。結果、生じた失業や生活水準の低下はネオリベ的個人主義の名のもとに受け入れられます(「実体経済の危機」)。その末路が2008年のサブプライムローン問題でした。

シュトレークは、これら3つの方法は、いずれもごく短期間しか有効ではないと言います。彼はそれを時間を金で買った、「時間かせぎ」にすぎないと主張します。

一方グローバルな資本の動きは今や国民国家の枠組みではコントロールできず、資本主義は民主主義から解放されてしまったというのが彼の分析です。つまり、むき出しの資本の暴力がグローバルな強化バージョンとなって復活してきていると。

EU経済危機への提案

EU経済問題の元凶は、ヨーロッパの各国政府とEU機構の官僚、グローバルエリートとの対立にある。彼は共通貨幣であるユーロ導入を「軽率な実験」だったと断言した上で、国民国家の主権回復と各国通貨への回帰こそが解決策であると主張します。

「EU官僚やグローバルエリートの支配にはもううんざり」「我々国民の手に民主主義を取り戻せ!」というわけです。

フランスのE.トッドも同様の理由から「ブレグジット」を評価していますが、グローバル経済に代わるシュトレークの提案は、なんと、ブレトンウッズ体制のような固定相場制の導入です。従来の国民国家の枠組みに戻ることで、各国が市場をコントロールでき、安定した雇用や福祉が維持されるというのです。

前に向かって進む

さて、最後に個人的な考えを述べておきましょう。

たしかにトランプや「ブレグジット」の事件は、グローバル化にさらされた人々の悲痛な叫び声としても理解できるかもしれません。もちろんそれは日本にとっても他人事ではないでしょう。

「グローバル化した資本主義」と「国民国家へ後戻りした民主主義」という対比はいびつそのものです。タックス・ヘイヴン問題一つとっても、重要なのは国家に税金を納めてくれる経済エリートですが、かれらを繋ぎ止めておくのは並大抵の努力ではできないでしょう。シュトレークの提案を時代錯誤だというハーバーマスの意見にも一理あります。

とはいえ、何か具体的な方策がすぐ思い浮かぶわけではありません。ではどうすればいいのか。どのように考えればいいのでしょうか。… とりあえず大きな方向としては、シュトレークの案とは逆に、前に向かって進もうとする方がはるかに元気が出ると思うのですが。

 
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