映画『パシフィック・リム』:グローバル資本主義という怪獣


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大窪善人
 




(1970年01月01日)

 

トランプ新大統領がTPP「永久離脱」の命令書にサインしました。

報道によれば、これにより米国は二国間の自由貿易協定(FTA)に軸足を移すということです。貿易交渉は従来の枠組みに戻るということで、TPP(環太平洋パートナーシップ)の構想が大きく後退するのはまちがいないでしょう。

ところで先日、映画『パシフィック・リム』(2013年公開)をDVDで観たのですが、現在の状況に即して考えると色々と予見的な内容でした。

壁の中で死ぬか、戦って死ぬか

ストーリーは、唐突に、太平洋にできた裂け目から現れた「怪獣(Kaiju)」が人類に襲いかかるところから始まります。対する人類は「イェーガー」と呼ばれる巨大ロボットを建造し反撃します。

主人公のローリー・ベケット(チャーリー・ハナム)はある出来事からイェーガーを降りるのを余儀なくされ、「命の壁」と呼ばれる怪獣防護壁の建設作業員として各地を転々としていました。しかし、ついにその壁も怪獣によって突破されてしまいます。

そこへ彼の元上司(ペントコスト/イドリス・エルバ)が現れます。ここが非常に印象的なシーンで、彼はベケットに二者択一を迫ります。「お前はどこで死ぬのか。壁の中か、イェーガーの中か」、「どうせ死ぬなら戦って死ぬ」、ベケットは再びイェーガーで戦う決心をするのです。

世界が直面するジレンマ

さて、現実に目を移すと、現在この「壁」が非常に象徴的な言葉になりつつあります。

米国とメキシコとのあいだに長大な壁を建設すると言っているトランプの米国だけではなく、昨年のブレグジット、あるいはE.トッドやW.シュトレークらヨーロッパのリベラル知識人のあいだからも、各国ごとの経済秩序に戻るべしという要求が高まっています。

ちなみに、映画では”怪獣がなぜ攻めてくるのか”ということにほとんどポイントはありません。襲い来る敵と戦うことが”正義”であり”美徳”であるという、きわめてシンプルかつマッチョなメッセージです。

しかし、もしもこの怪獣がパシフィック・リム=環太平洋の裂け目の向こうから現れるのではなく、人類社会がみずから生み出したものだとしたら、どうでしょうか?

「アメリカ・ファースト」だということで自国の産業は保護しつつ、しかし外国には製品を輸出して儲けたいので貿易交渉を進めるというご都合主義。いぜんとして国家単位の民主主義とグローバルな資本主義との分裂。ここに現在の世界が直面するジレンマがあります。
 

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