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バートン・マルキール著、 井手 正介訳
 『ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理』

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書名:ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理

著者:バートン・マルキール

訳者:井手 正介

出版社:日本経済新聞出版社

出版年:2016


 

資産運用を考えている方は必ず読むべき本だと言われていますし、私もそう思います。資産運用を考えていなくても株式投資という世界でどのようなことが行われているのかを知ることができておもしろいです。



個人型確定拠出年金の加入範囲の拡大やNISAの導入といった時代の流れから考えると、これからは各人が老後資金のためなどに資産運用を考えるべきなのかもしれません。国民年金の免除の適用を受けているくらいでとても資産運用を考えるほどの収入がないという方と、企業がすべて用意してくれるからそれに乗っていれば大丈夫という方以外は、本書を読んで資産運用について考えてみてはいかがでしょうか。



この頃では株にまつわるニュースが報道されることも多いので、純粋な知的好奇心から本書を読んでも楽しめると思います。資本主義の最先端だと目に映るプロのファンドマネージャーもダーツを投げて銘柄を選ぶ猿と大差がないといった話は痛快です。ベータや行動ファイナンスといった比較的新しい理論の真面目な勉強にもなります。



以下では実際に資産運用を考えている方へ(本書第4部)と投資理論に興味のある方へ(本書第1部〜第3部)とに分けて、日本の制度や状況を踏まえて私が本書を理解して再構成した解説をお届けします。



1.実際に資産運用を考えている方へ



(1)確定拠出年金でインデックスファンド



結論から言うと、確定拠出年金を利用して、国際株式を中心にインデックスファンドを買い、長期で保有することです。



まず確定拠出年金というところから説明します。確定拠出年金とは毎月一定額を拠出して自己の責任において運用の指図を行う年金です。そのため運用成績次第で受け取り額が変わります。退職金のように一時金として受け取ることもできます。受け取り時は年金払いなら公的年金等控除、一時金払いなら退職所得控除の対象となります。いずれの場合も運用益に課税はされませんし、掛金は全額所得控除の対象とされます。ポイントは「毎月一定額を拠出(ドルコスト平均法)」ということと「税制上お得」ということです。



次に国際株式について説明します。孫引きになりますが本書p.367にある以下の図をご覧ください。





長期的に考えると株の収益率が優れていたということが見て取れます。経済発展の源である企業活動に近いから収益が高いのだと私は考えます。日本株やアメリカ株だけだとその国の経済が悪化すると収益が低くなりますが、世界全体で経済が悪化することは考えにくいので、国際株式をおすすめします。



それなら高成長を遂げている個別企業の株を買えばよいのではないかといった疑問が生じると思います。しかしこれまで高成長を遂げてきた企業がこれからも成長するとは限りませんし、災害などのアクシデントに見舞われるかもしれません。そして仮に成長を続けたとしても株価の推移次第では資産の収益性が悪くなることが十分に考えられます。そこでそうした不確定要因を減らすために、多数の株の平均であるインデックスファンドを買うのです。



それでも年によっては株式市場全体が低迷することがあります。そうなるといくらインデックスファンドを買っていたとしても資産価値が下落します。そうしたリスクを減らすためには長期で保有することです。



細かいことを言うと、保険の見直しや手数料の考慮、年齢や性格に応じて債権や不動産の比率を高めることなども考えてよいです。詳しくは第267回 「ランダムウォーカー流」財産の健康管理の10カ条を読む | 山崎元「ホンネの投資教室」 | 楽天証券や直接本書を読んでください。



(2)NISAで個別株



余裕があればNISAを活用して個別企業の株を買うのもありでしょう。本書の表メッセージが「インデックスファンドを買え」だとすると、裏メッセージは「個別株を買うのは楽しいよ」だと私は感じました。著者のバートン・マルキールさんも個別株を買っているようですし、訳者の井手正介さんには『井手正介のバリュー株入門―金融危機の今こそ学ぶ!』という著書があるくらいですから言わずもがなです。ただし個別株を買う場合はリスクを負っていることを自覚して考える楽しみを味わっているのだと捉えるべきです。



その線で本書の枠からはみ出して現状でどうすればよいかを考えると、NISAを活用して好きな企業の株を買うということになると思います。



NISAを活用することのポイントは確定拠出年金と同じで「毎年一定額を拠出(ドルコスト平均法)」ということと「税制上お得」ということです。証券会社によってはNISA口座の売買手数料が無料だというところもあります。



個別企業の株を買うことの意義は楽しめるという点にあるので、自分が好きな企業の株を買うのがよいです。他人に言われるがまま買うのであればインデックスファンドを買ったほうがよっぽどましです。普段利用している商品を扱っている企業でもいいですし、理念に共鳴する、株主優待が魅力的だなど、好きだという理由は何でもよいと思います。



2.投資理論に興味のある方へ



(1)3つの考え方のそれへの批判



投資理論は、(A)テクニカル派(砂上の楼閣派)、(B)ファンダメンタル派、(C)ランダム・ウォーク派の3つに大別して考えるとわかりやすいです。



(A)テクニカル派は「相場のことは相場に聞け」という格言の下で過去の株価や出来高などから将来の株価を予想しようとします。企業の業績や社会的なニュースなどはすべて株価に織り込まれるのだから、その株価の動きだけを見ればよいという理屈です。例えば、1日の株価の高値と安値と終値を時系列に並べたら上昇トレンドや抵抗線などが見て取れるので、そのサインに従って取引すればよいということになります。



(B)ファンダメンタル派は財務諸表などから企業の本質的な価値を算定し、その本質価値と株価とを比較して割安な株を買って割高な株を売るという戦略を取ります。企業の本質的な価値を将来の全配当を現在価値に割り引いたものであるとフローベースで考えることもあれば、その企業が現在有している有形・無形の価値の合計であるとストックベースで考えることもあります。PERやPBRはそうした指標です。



(C)ランダム・ウォーク派は株価はランダムに推移すると考えて、予想することを断念します。ランダムというのは満遍なくということとは異なり、例えばコイン投げだと意外に表ばかりが続いたり裏ばかりが続いたりします。私も自分で表計算ソフトを用いて擬似乱数でランダム・ウォークを再現してみたら、株価の推移のようなグラフが出来上がりました。



本書の第1部は主にバブルの歴史的な話です。(A)テクニカル派ならいかにバブルの初期に乗って崩壊の初期で降りるかという発想になります。(B)ファンダメンタル派は不況時に割安評価されている株を買って好況時に割高評価されている株を売るという発想になります。(C)ランダム・ウォーク派はバブルもランダムに作られたものだと考えて気にしないという発想になります。



本書の著者は(C)ランダム・ウォーク派の立場から(A)テクニカル派と(B)ファンダメンタル派を徹底的に批判します。



(A)テクニカル派への批判の最大の根拠は、(A)テクニカル派が有効だと主張するどの代表的な指標で検証してみても収益率が市場平均を有意に超えることはなかったという実証研究です。代表的ではない指標に有用なものがあるかもしれないではないかという反論に対しては、もし有用な指標があれば多くの人がそれを使い、その結果有用ではなくなると理論的な再反論がなされます。



(B)ファンダメンタル派への批判の最大の根拠も、(B)ファンダメンタル派の立場から知力を尽くして分析しているはずの投資信託でさえ、一貫してよい成績を残しているところはほとんどないという実証研究です。それに加えて、企業の本質価値を計算する際の不確かさや、価値評価の根拠となる財務諸表の粉飾の可能性なども指摘されます。



これだけだと不公平なので、(C)ランダム・ウォーク派への批判、つまり本書への批判も考えてみましょう。(C)ランダム・ウォーク派が支持するインデックスファンドが登場してから日も浅くその有効性を検証するのは難しいので理論的な可能性を探ります。もしもインデックスファンドの有用性が広く信じられてほとんどの人がこれを買うとなると、残りわずかな人の動きに翻弄されるのではないでしょうか。インデックスファンドは(A)テクニカル派や(B)ファンダメンタル派ががんばって作り上げた効率的な市場にタダ乗りしているフリーライダーと言えます。インデックスファンドは市場での値付けにそのまま追従するので、市場での値付けが効率的に行われなければ困るはずです。また、株式の議決権などが空洞化して、経営者が企業全体よりも自分を優先するなどの問題が増える可能性もあります。過去200年くらいは世界の経済全体が成長したことが事実だとしても、今後も同じように成長するとは限らないという根本的な批判もあり得ます。



(2)現代投資理論



現代投資理論をここで必要な限度で要約すると、いろいろな株を組み合わせるとリスク(収益率の分散)が低下するということです。これは(C)ランダム・ウォーク派と相性のよい理論です。インデックスファンドでは個別株のリスクが相殺されて低下し、残るのはシステミックリスク(ベータが1のリスク)だけだということになるからです。



こうした現代投資理論の背景には、投資家は同じ収益率ならばリスク(収益率の分散)を低くすることを好むという想定があります。この合理的な投資家像に真っ向から挑戦するのが行動ファイナンス理論です。数学的には同じ事柄であっても人間は損失を回避するように行動しがちであるとか、他の人の意見の流される傾向があるといった実験結果が多数報告されています。こうした行動ファイナンス理論は明らかに(A)テクニカル派の理論的支柱となり得ます。



現代投資理論の想定が正しいとすると、市場全体の変動幅と比べてより大きく変動する(ベータが1より大きい)個別株の収益率が高く、より小さく変動する(ベータが1より小さい)個別株の収益率が低くなるはずです。しかし実際に測定するとそうなっていないという研究結果があります。それならば市場全体の変動幅より小さく変動する(ベータが1より小さい)個別株を集めて買えば収益率はそのままでリスク(収益率の分散)を下げられるのではないかというのがスマート・ベータです。その他にも小型株だけ集めたり、低PER株だけを集めたりするのもスマート・ベータに含まれることがあります。これは明らかに(B)ファンダメンタル派的な発想です。



本書の筆者の立場は(C)ランダム・ウォーク派であることに変わりはなく、行動ファイナンスやスマート・ベータには概して否定的です。とはいうものの、これらに対する筆者の批判は決して歯切れがよくありません。現に行動ファイナンス風のアドバイスが本書の随所に見られますし、インデックスファンドを組み合わせるときには新興国を重視してもよいと述べるなどスマート・ベータに通じるような考え方も見られます。



3.終わりに



この書評を読んで興味を持たれた方はぜひ本書そのものを読んでください。実際の資産運用に役立ち、投資理論の理解も深まり、そして何より記述がおもしろいです。




* 本書評は投資等の勧誘目的で作成されたのではありません。投資の決定はご自身で行ってください。評者は金融関係の仕事をしているわけではないのでそういう意味での偏向は排除したつもりです。


(評者:浅野直樹)

更新:2016/11/06