書名:最底辺の10億人――最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?
著者:ポール・コリアー
訳者:中谷和男
出版社:日経BP社
出版年:2008

著者は貧困国が陥りやすい「罠」を次の4つに分類する。

 ①内戦の罠

 ②天然資源の罠

 ③内陸国の罠

 ④悪いガバナンスの罠


そのうえで、最貧国がこれらの罠から抜け出すための4つの方策を提案する。

 A.援助

 B.軍事介入

 C.国際憲章の公布

 D.貿易自由化政策



 特にAの援助に関しては、ただ資金を貧困国に寄付するだけでは駄目だ。

 ↓の記事が示しているように、ほとんどの寄付金は実際にその寄付を必要としている人のもとには届かないから。



◆アフリカが発展しない理由http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100207



 そこで著者は、援助に際して、

 (1) インセンティブをつける

 (2) 技術協力として援助を行う

 (3) 一回ずつに限定された「ビッグ・プッシュ」を行う


といった工夫を提案する。



 Bの軍事介入に関しては、最貧国の軍事費負担を軽減するために、先進国が最低限の軍事介入を行うことを正当化している。

 Cの国際憲章の公布に関しては、

 (1) 天然資源収入の透明化のための国際憲章

 (2) 民主主義の普及のための国際憲章

 (3) 紛争後情勢の安定化のための国際憲章

 (4) 投資リスク削減のための国際憲章

という4種類の国際憲章を提案。



 Dの貿易自由化政策に関しては、最貧国を国際輸出市場に参入させるために、最貧国の輸出品にたいする「関税の撤廃」を提案する。この関税撤廃によって、最貧国は新興アジア諸国と競争しながら、輸出品の多様化(第一次産業依存からの脱却)を図ることができるだろう。

 と、かなり図式化してまとめましたが、本文中ではそれぞれのケースを多くの実証研究に基づきながら、詳しく検討しています。海外の貧困問題などはほとんど素人だったのですが、非常に勉強になりまた。

 近年、国内の貧困問題に注目が集まるようになりましたが、その反面、海外の貧困問題は忘れさられがちです。直接自分が何かをできるわけではないですが、「最底辺の10億人」の人々について、せめて知識と意識だけはしっかりもっておきたいと考えさせられました。

(評者:百木漠)

更新:2012/06/14