書名:いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ 著者:吉川洋 出版社:ダイヤモンド社 出版年:2009 |
東洋経済「09年上期ベスト経済書」1位になってたので読んでみた。
特に新しい発見はなかったけど、ケインズとシュンペーターという20世紀を代表する経済学者二巨頭の考えが分かりやすくまとまっていて、良い復習になった感じ。
ケインズとシュンペーターはともに1883年生まれ、1929年~の世界大恐慌を経て、それぞれに独自の経済理論を打ち立てました。ふたりの理論は現在の経済学でも頻繁に引用・応用されています。 ざっくり言ってしまえば、 経済が不況にあるときに、それを突破する鍵を「需要」サイドに求めたのがケインズ、「供給」サイドに求めたのがシュンペーターです。副題にもあるとおり、ケインズの理論は「有効需要理論」、シュンペーターの理論は「イノベーション理論」として知られます。
不況期には有効需要が不足しているので、政府が積極的な財政支出=公共投資を行い、有効需要を作り出すべき、というのがケインズ「有効需要理論」の考え方。 不況期を打破するのは企業家による「イノベーション(新結合)」であり、これが経済の新しい局面を切り開き、新たな需要を喚起するのだ、というのがシュンペーター「イノベーション理論」の考え方。
この理論のどちらが正しいかをめぐる議論は、現在もケインズ主義vs新自由主義の論争として引き継がれ、いまだに決着はついていません。おそらくこれからも当分、決着がつくことはないでしょう。
ケインズ主義は1950~60年代に隆盛を誇ったのち、70年代以降の新自由主義(新古典派)経済学の台頭(ミルトン・フリードマンを巨頭とする)によって厳しく批判され始め、一時期は「ケインズは死んだ」と言われるまでにその勢いを落としました。しかし、昨年秋のリーマン・ショック以後、各国がそろって巨額の財政支出に踏みきったため、最近ではケインズ派が復権し、「ケインズが蘇った」と言われるようになりました。一昨年のノーベル経済学賞がニュー・ケインジアンであるポール・クルーグマンに授与されたことが象徴的です。
一方で、シュンペーターのイノベーション理論を掲げていた代表が、小泉内閣時代の竹中平蔵です。竹中平蔵は、企業家精神をもった人たちが十分にその能力を発揮できるような社会にするために、日本の「構造改革」が必要だ、と言っていたのですね。小泉=竹中路線は、一時期は熱狂的な国民の支持を獲得したものの、近年では格差・貧困問題によって批判的に語られることが多くなりました。
これからの経済のあり方について、専門家や批評家と呼ばれる人たちがそれぞれ様々なことを言っていますが、基本的にそれらのほとんどの意見を、上に述べたケインズ派とシュンペーター派に分類することができます。(分類できないのは、数少ないマルクス主義者くらいです) そういう意味で、ケインズとシュンペーターの基本的な経済理論を理解しておくことは、非常に有益です。この本は、その両者の考えを理解するための最適な教科書になっていると思います。
(評者:百木漠)
更新:2012/06/14