【リポート】KUNILABO開校記念イベント「いま、人文学を学ぶ」

大窪善人
 
koukaido

人文学の学校「KUNILABO」が今春よりスタートする。
KUNILABO(クニラボ)とは、東京 国立市を拠点に、だれもが人文学を学べる場所をつくろうという試みです。

その開校記念イベントが開かれるということで、イベント会場の吉祥寺 武蔵野公会堂へ行ってきました。

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東京都多摩地区には、多数の大学があり、人文学のアカデミックな知であふれています。
KUNILABOが発足した国立市もその一つです。
「そのような人文学の知を大学だけにとどめておくのはもったいない。」
わたしたちは、そう考えました。
より多くの人びとと人文学の培ってきた知識を共有し、大学人と地域の市民の方がたとが共に学びあう場。KUNILABOは、大学人と市民のみなさんが相互に学ぶ、あたらしい形の学校です。

運営の中心は第一線で活躍する若手研究者で、代表を務める大河内泰樹さんは一橋大学でドイツ哲学を研究されている先生です。
はじめに大河内さんから立ち上げの経緯が説明されました。

背景には、去年一部で話題になった文科省の「文系廃止騒動」に象徴されるような、大学(とくに文系学部)を取り巻く社会状況の変化があるということです。

人文学は何のために存在するのか? 経済的な利益に結びつかない、新しい技術ができるわけでもない、大学は人々のニーズに答えていないのではないか…

人生の日曜日のために

KUNILABOはそのような状況に向けられたカウンターあるいはアンチテーゼでしょう。

人文学は役に立つ! しかし、それはどのような意味で? 
大河内さんはヘーゲルを引いてこう答えます。「人生の日曜日」のために、と。

仕事の現場でよく合理化ということが言われますが、社会のなかで経済の論理が支配的になると「休み」はそれ自体の価値を失って、単に「働いていない時間」というネガティブなものになってしまいかねません。

ほんとうは豊かな生活を過ごすために働いていたはずなのに、いつのまにか明日の仕事に備えるために休日があるというふうになってしまう。端的に言ってそれは息苦しくないでしょうか。
むしろ、「あえて役に立たない」ということが、逆に「解放」や「喜び」につながるのではないか。お話を聞いていてそのような感想をもちました。

「経験」としての学び

今回のイベントは二部構成になっていて、第一部は高橋源一郎さんの基調講演が、続く二部では4月から始まる講座のデモンストレーションが開催されました。

高橋氏の講演「教育の「再定義」に向けて」では、ステージに用意された教壇を外して会場とのインタラクションやときより脱線(?)を交えつつ、教育や大学について示唆に富む話を聞くことができました。

常識とか普段感覚的にわかったつもりでいることを疑ってみる、すると新たな気づきが生まれる。それこそが人文学の「学び」であると。

また、とくに印象深かったのは高橋さんの語りのスタイルです。知識を単なる情報として効率よく伝えるというのではなく、むしろ、参加者の反応に沿ってそろそろとゆっくり進んでいくようなイメージ(実際に高橋さんはいつも歩きながら講義をされているそうです)でした。

もちろん、すでに正解が決まっている問題なら、いち早く答えにたどり着くのが正しいわけです。しかし、答えが決まっていない問いならば、ときには立ち止まったり、迷ったりすることも大切ではないでしょうか。学びは実際に「経験すること」を通じて得られるものなんだ、そのように感じました。

4月からスタートする6つの講座

第二部では、4月から始まる6つの講座のうち3つ+1つの模擬授業・紹介が行われました。「歴史学」コースからは、秋山晋吾先生の「『難民問題』からさかのぼって考える東ヨーロッパ現代史」、「文学」コースからは中丸禎子先生の「『人魚姫』を読む」、「哲学」コースからは大河内泰樹先生の「ヘーゲル哲学入門」、そして、佐々木雄大先生の「エコノミーとは何か:概念から学ぶ哲学史」の紹介がされ、短い時間ながらもそれぞれの講義の魅力が語られました。

この他にも、越智博美先生の「『風と共に去りぬ』から読み解くアメリカ南部社会」、石居人也先生の「国立から見る近代日本」も予定されており、さらに、夏には特別講義 小野俊太郎先生の「『となりのトトロ』を読む」が開講されるとのこと。

国立からどのような学びの場がつくり出されていくのか。
KUNILABOの展開に注目です。

 

KUNILABO HP/国立人文研究所

 

【リポート】KUNILABO開校記念イベント「いま、人文学を学ぶ」」への3件のフィードバック

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