月別アーカイブ: 2015年2月

批評鍋 トマ・ピケティ『21世紀の資本』 2015年2月21日放送

 

出演:
浅野直樹さん、船越克真さん、百木漠さん
岡室悠介さん、大窪善人、村田智子さん(コメント係)

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写真:村田智子
 

内容:
『21世紀の資本』の忠実なまとめとわかりやすい解説/浅野
・『21世紀の資本』は「専門書」ではない。誰もが読めるように書いてある。
ピケティが広く読まれる理由はそこにある/浅野
・日本のピケティ受容の問題。マルクス主義のリバイバル期待/岡室
・格差問題を正面から扱っているのが大きな特徴/船越
・経済の長期的分析、ビッグデータ時代の研究。
背景に主流の経済学に対するピケティの不満/百木
・20世紀の資本主義の例外性と21世紀への展望/百木

各論・異論
・マルクスとピケティとの比較。資本主義に対する態度の違い/百木
・グローバルな資本課税は可能か/岡室
・そもそも「資本」とは何か/大窪
・r(資本収益率)の増加傾向。rが社会的に偏在していることの問題/浅野
・ピケティは「資本主義」を問題にしたか。
ピケティはもっぱら具体的な政策、制度を論じている/浅野
・なぜ「r>g」なのか/浅野
・中流格差の問題。相続か能力か/浅野
・教育は格差を是正するのか/船越
・ピケティは暗いシナリオ?
世襲型資本主義と若者の意識変化/百木
・国家に頼らない形での経済の仕組みの可能性/百木
・ピケティの科学的アプローチと規範的な主張/大窪
・格差をみる視点。なぜ格差は問題になるのか/大窪
・利子率革命論。資本主義は終わるのか/大窪
・経済規制の根拠。道徳的理由と制度設計的理由/船越
・富裕層にピケティが受けているのはなぜか。
かれらにとってピケティは痛くないから。
制度的再分配だけに頼るのは楽観的。/百木
・投資のすすめとしてピケティは読める/岡室
・能力主義をどう評価するのか/船越

 
おすすめの記事

トマ・ピケティ『21世紀の資本』の忠実なまとめとわかりやすい解説/浅野直樹
 
取り上げた本


21世紀の資本

みすず書房(2015年01月21日)

 
これまでの批評鍋
http://kyoto-academeia.sakura.ne.jp/blog/?cat=20

 

トマ・ピケティ『21世紀の資本』の忠実なまとめとわかりやすい解説

トマ・ピケティ『21世紀の資本』を読了しました。kindle版が安く手に入るのとより原文に近いだろうという理由で英語版を読みました。

内容を各章ごとに忠実にまとめてわかりやすく解説したサイトがあまり見つからなかったので、自分用のメモも兼ねてここに作ってみました。

図表や目次はピケティ『21世紀の資本』オンラインページを参考にさせていただきました。

 

はじめに

・方法論ーー小説からの引用と統計的なデータの両方

・先行研究とのつながりーーマルサスの人口論、リカードの古典派経済学(希少性)、マルクスの資本蓄積、クズネッツ曲線(資本主義経済の発展は最初格差を拡大するが後に格差を縮小させる)

・考察対象ーー歴史的・地理的には18世紀以降のヨーロッパを中心としつつ、全歴史、地球全体も考慮に入れる

 

1.所得と資本

・国民所得=国内生産高+外国からの純収入
(生産という観点から見た式)

・国民所得=資本所得+労働所得
(資本と労働の分割から見た式)

・資本…所有権の対象となる全ての物
(持ち家の家賃相当や特許なども含むが、奴隷制でない限り人的資本は含まない)

・国富(国家財産、国家資本)=私有財産+国有財産
(財産の所有者から見た式)

・国富(国家財産、国家資本)=国内資本+純外国資本
(資本の居所から見た式)

・α=r×β
 α…国富に占める資本収益の割合
 r…資本収益率(利子率、地代の率、配当の率…の平均)
 β…資本/所得
 例)一人当たり資本が2400万円、一人当たり所得が400万円ならβ=2400万/400万=6
 例)r=5%、β=6ならα=5%×6=30%

・世界の格差――月2万円から月40万円まで

 

2.成長――幻想と現実

・生産高と人口の成長率

01

(それでも累積的な成長は大きくなる、複利のすごさ)
例)年率1%の成長で30年後には全体の規模が約35%増加する(1.01^30=1.3478…)

・人口が増えると相続が分割されるので格差は縮小する

・購買力の上昇については一律に言えない
 購買力上昇の平均<工業製品生産
 購買力上昇の平均≒食料品
 購買力上昇の平均<サービス産業
⇒サービス産業の比率が高まる(生活の多様化)

・18〜19世紀は物価が安定していた(ジェーン・オースティンやバルザックの小説)

・20世紀中頃のインフレ

 

3.資本の変容(フランスとイギリス)

・国家資本=農地+住宅+他の国内資本+純外国資本
(農地が減って他の国内資本が増えている)

・国家資本=私有財産+国有財産
(国有財産の割合は時代によって変化している)

・国の借金はインフレによって小さくなる
(国債を持っている人がインフレで損をする)

 

4.古いヨーロッパからアメリカ大陸へ

・ドイツの特徴は株主だけではなく多様な利害関係者かいるライン資本主義

・アメリカは新世界なのでヨーロッパより資本の変動が小さかった

・カナダは外国資本を割合が高かった

・奴隷制度のもとでは資本が大きくなる

 

5.長期的な資本/所得比率

・β=s/g(貯蓄率/成長率)とも表すことができる

・先進国では1970年代以降にβ(資本/所得比率)が再び高まってきた

・貯蓄率は家計と企業の両方

 

6.21世紀の資本と労働の分割

・資本分配率:労働分配率=α:1−α
 α…国富に占める資本収益の割合
例)30%:70%

・r(資本収益率)は19世紀の5%から現在の3〜4%まで少し低下した

・資本が大きくなると資本の限界生産性は低下するが、βの増加を上回る速度で低下するとは限らない
(資本の限界生産性が低下して総体としてのrが小さくなってもそれ以上にβが大きくなればα(=r×β)は大きくなる)

・α(国富に占める資本収益の割合)は不変ではないし、g(成長率)がゼロになることもない

 

7.格差と集中ーー予備的意味合い

・ヴォートラン(バルザック『ゴリオ爺さん』の登場人物)の教えーー働くよりも結婚して相続するほうが金持ちになれる

・労働よりも資本のほうが格差が大きい

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03

・社会的な階級ではなく度数の階級で考える

・世襲型の中流階級の出現

 

8.二つの世界(フランスとアメリカ)

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・2つの世界大戦、世界恐慌、税制が理由で格差が縮小

・不労所得生活者(金利生活者)の社会から経営者の社会へ

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・格差拡大が経済危機を招いた(購買力の低下)

 

9.労働所得の格差

・賃金格差は技術を教育が追いかけるという競争から生じるという説
⇒これだけでは説明にならない

・制度の役割(最低賃金など)

・アメリカの最近の格差拡大は高額報酬経営者のせい

・1900年〜1910年にはヨーロッパがアメリカよりも不平等だった

・途上国も同じくらい不平等である

・限界生産性という概念は幻想である(経営者の限界生産性は測定できずお手盛りの危険がある)

 

10.資本所有の格差

・ベル・エポック期のヨーロッパでは格差が大きかったが、20世紀前半に格差が縮小した

・アメリカではその変化が緩やかだった

・r>gなので格差が拡大する
例)r=5%、g=1%であれば、r(利子、配当、地代…)のうち1/5を再投資するだけで資本が維持される

・r>gを説明する一つの理論は時間選好性(一年後の105円より今日の100円)だが、それだけでは説明しきれない

・民法の相続ルールによっても影響を受ける(家督相続か均等相続か)

・現在ではなぜベル・エポック期ほどまでに格差が拡大していないのか
⇒時間がそれほど経っていないから、累進税などがあるから、成長率が高いから

 

11.長期における能力と相続

・相続のフロー
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・b=μ×m×β
 …ある年のフローのうちで相続フローが占める割合
 μ…死亡時の平均財産(全個人の平均財産を1とする)
 m…死亡率
 β…資本/所得
 例1)μ=1、m=2%、β=6ならb=12%
 例2)μ=2、m=2%、β=6ならb=24%(死亡時の財産が多い)
 例3)μ=0、m=2%、β=6ならb=0%(死亡時に財産がない)

・mは2000年あたりを境に上昇に転じる

・死亡が遅くなれば財産も多くなる(mが低下してもμが増大する)

・μは1を超えている

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・1890年〜1970年を除いて相続のほうが有利

・不労所得生活者(金利生活者)と経営者のどちらが有利かは簡単に計算できる
例)資本所有の上位1%が全体の60%の資本を所有していて、給与所得の上位1%が総所得の6%を取っているなら、資本所得:給与所得が1:3であっても、前者は0.25×0.6=0.15、後者が0.75×0.06=0.045と前者のほうが有利である

・小説などに描かれる理想像が不労所得生活者(金利生活者)から能力主義的な人物に変化してきた
(ただし相続財産がなくなったわけではない)

 

12.21世紀におけるグローバルな格差

・資本収益率の格差ーー資本が大きいほどリスクを取れるし投資アドバイスも手に入りやすくなるので収益率も大きくなる

・フォーブス紙に載っているような億万長者が持っている資産の割合が大きくなっている

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・億万長者には相続人もいれば経営者もいる

・大学基金の収益は大きい(一流のファンドマネージャーに相談しているから)

・インフレは資本収益をなくすのではなく、資本収益の分布を変える

・政府系ファンドには不確定な部分が多い(政治も入り込む)

・どこかの国が世界を支配するというよりも、各地の金持ちが世界を支配する
(多くの国で資本収支がマイナスである、つまり過少申告である)

 

13.21世紀に向けた社会国家

・2008年の危機が大恐慌にならなかったのは政府や中央銀行が流動性を高めたおかげ

・20世紀に国家財政が大きくなった(教育、年金、医療など)

・教育制度が社会移動可能性をそれほど促進していない(高い大学の学費など)

・賦課方式年金の問題ーー複雑である、急には変えられない

・新興国は社会国家になっていない

 

14.累進所得税再考

・累進所得税は世界大戦期に考案され、しばらくは格差の縮小に寄与したが、現在では危機に瀕している

・役員報酬が爆発的に増加したのは所得税率が下がったため

 

15.グローバルな資本税

・まずは資本の透明性を高めることが大事、銀行情報の自動送信

・資本税で所得税、相続性、固定資産税を補完できる

例)100万ユーロ(1億3500万円)以下は0%、100万ユーロ(1億3500万円)〜500万ユーロ(6億7500万円)で1%、500万ユーロ(6億7500万円)以上で2%という資本税で、ヨーロッパのGDPの2%の税収がある

・資本税は、私有財産の否定よりも、協働を妨げないという点で効果的

・保護主義、資本統制、資源収益の分配、移民は資本税よりも効果が限定的

 

16.公的債務の問題

・公的債務を資本税で返済するとしたら、100万ユーロ(1億3500万円)以下は0%、100万ユーロ(1億3500万円)〜500万ユーロ(6億7500万円)で10%、500万ユーロ(6億7500万円)以上で20%という一回の資本税で可能

・インフレで公的債務を帳消しにすることもできるが、インフレをコントロールできないおそれがある

・中央銀行は貸し手の頼みの綱
(そうして企業を救うことがよい結果になるか悪い結果になるかはわからない)

・キプロス危機では資本税が徴収されたが、事前の資本情報が不十分だった

・ユーロについてはヨーロッパ全体で取り組まなければならない

・資本蓄積に関して、理論的にr=gとなり得るが、どのような水準がよいのかは良識に沿って決めるしかない
(現在にどれくらい消費して、将来にどれくらい残しておくか)

・そのためにも透明性を高めて資本を民主的にコントロールすべき

 

おわりに

・r>gという矛盾には資本税で対処する

・政治歴史経済学を志向する

 

もっと詳しく知りたい点があればぜひ本文に当たってみてください。

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時事ニュースと歴史/講師 中島 啓勝

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「現代思想」2月号 反知性主義と向き合う:知性と戦略との対立へ

大窪善人


現代思想 2015年2月号
特集=反知性主義と向き合う
ムック –青土社 (2015/1/26)

 

現代日本の反知性主義化?

去年の春頃に書店に行ってびっくりしたことがあるのですが、店の入り口の一番目立つコーナーに韓国や中国を批判する本がズラリと並べられていて、非常によく売れていました。たしかに、その類の本は今までからもありました。しかし、それはジャンル別のコーナーに置いていただけで、これほどメジャーな扱いになったのには驚きました。
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やっぱり知りたい!! マルクス[リポート]

 

やっぱり知りたい!! マルクス
講師:百木 漠 (NPO法人 京都アカデメイア副理事長。京都大学 人間・環境学研究科 博士後期課程在学)
開催:京都アカデメイア ✕ GACCOH
 

昨年のアーレントの入門講座に引き続き、GACCOH共催イベントの第二弾。
今回はマルクス入門講座で、アーレントやマルクスを中心に社会思想史が専門の百木漠が丁寧に解説しました。

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今回のテーマは「イデオロギー抜きにマルクスを読む」

マルクスといえば日本の大学などでも膨大な研究がされてきましたし、書店にいけばマルクスと名の付く本がたくさん置いています。
非常に人気のある思想家ですが、一方で「そのマルクスの解釈は間違っている」とか、「マルクスの正しい解釈はこうだ」といった教義みたいなものができあがり、あたかも宗教の聖典であるかのように近づきがたい印象もあります。

今回は、そうした「正統的な」マルクスの解釈とは別に、イデオロギーから自由にマルクスを読んでみようというのがテーマです。

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前半の第一部では、百木さんが、マルクスについての基本的なレクチャーを行いました。マルクスの主著である『資本論』、その中でも、第1巻の第4章「貨幣の資本への転化」を中心に、マルクスが資本主義の仕組みや矛盾をどのように説明したのかを解説しました。

今の経済学でマルクスがそのまま使われることはほとんどありません。それでも、資本主義がもつ根本的な仕組みや矛盾を明らかにするために、今でもマルクスは十分に有効性があると指摘。マルクスを読む魅力は、資本主義の仕組みを内側から徹底的に解き明かすことを通じて、逆に、資本主義ではない経済や社会の展望へと多くの人を駆り立てるところにあるといいます。

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後半では、会場からの質問に答えながら進めました。

イベント終了後も会場からの要望に答えてピケティの『21世紀の資本』のレクチャーが続行。

ご参加いただき、ありがとうございました。

文責:京都アカデメイア 大窪善人

 
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GACCOH教養講座「寝ながら学べるアーレント」第一回講義レポート/倉津拓也
 


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京アカ通信 Vol.02 ができました

 

会報誌 「京アカ通信」Vol.02が完成しました!

第2号は、去年からスタートした京都アカデメイア塾を特集しています。
百木さんと浅野さんがインタビュー形式で出演し、「京アカ塾」のコンセプトや実際の授業の様子などを紹介しています。

 

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制作風景。パソコン上で記事をレイアウトしていきます。

 

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内容はもちろん、素材にもこだわって作りました。かなりいい紙を使っています。

 

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百木さんの記事です。ちなみに全ページ、フルカラー仕様!

 

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発送作業の様子。
会員のみなさんのほか、お世話になっている方や団体にもお送りしています。
週明けにはお手元に届くと思います。どうぞご笑覧ください。

 


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京都アカデメイアの活動は会員の方々の会費と参加・応援によって成り立っています。当会の活動、理念に賛同して参加、応援していただける方をお待ちしています。

スタッフとしてイベントなどを企画したいという方は「正会員」、資金面から応援していただける方は「賛助会員」があります。入会いただくと特典として、年一回、会報誌「京アカ通信」をお送りいたします。

詳しくは、入会案内をご覧ください。

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