トマ・ピケティ『21世紀の資本』の忠実なまとめとわかりやすい解説

トマ・ピケティ『21世紀の資本』を読了しました。kindle版が安く手に入るのとより原文に近いだろうという理由で英語版を読みました。

内容を各章ごとに忠実にまとめてわかりやすく解説したサイトがあまり見つからなかったので、自分用のメモも兼ねてここに作ってみました。

図表や目次はピケティ『21世紀の資本』オンラインページを参考にさせていただきました。

 

はじめに

・方法論ーー小説からの引用と統計的なデータの両方

・先行研究とのつながりーーマルサスの人口論、リカードの古典派経済学(希少性)、マルクスの資本蓄積、クズネッツ曲線(資本主義経済の発展は最初格差を拡大するが後に格差を縮小させる)

・考察対象ーー歴史的・地理的には18世紀以降のヨーロッパを中心としつつ、全歴史、地球全体も考慮に入れる

 

1.所得と資本

・国民所得=国内生産高+外国からの純収入
(生産という観点から見た式)

・国民所得=資本所得+労働所得
(資本と労働の分割から見た式)

・資本…所有権の対象となる全ての物
(持ち家の家賃相当や特許なども含むが、奴隷制でない限り人的資本は含まない)

・国富(国家財産、国家資本)=私有財産+国有財産
(財産の所有者から見た式)

・国富(国家財産、国家資本)=国内資本+純外国資本
(資本の居所から見た式)

・α=r×β
 α…国富に占める資本収益の割合
 r…資本収益率(利子率、地代の率、配当の率…の平均)
 β…資本/所得
 例)一人当たり資本が2400万円、一人当たり所得が400万円ならβ=2400万/400万=6
 例)r=5%、β=6ならα=5%×6=30%

・世界の格差――月2万円から月40万円まで

 

2.成長――幻想と現実

・生産高と人口の成長率

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(それでも累積的な成長は大きくなる、複利のすごさ)
例)年率1%の成長で30年後には全体の規模が約35%増加する(1.01^30=1.3478…)

・人口が増えると相続が分割されるので格差は縮小する

・購買力の上昇については一律に言えない
 購買力上昇の平均<工業製品生産
 購買力上昇の平均≒食料品
 購買力上昇の平均<サービス産業
⇒サービス産業の比率が高まる(生活の多様化)

・18〜19世紀は物価が安定していた(ジェーン・オースティンやバルザックの小説)

・20世紀中頃のインフレ

 

3.資本の変容(フランスとイギリス)

・国家資本=農地+住宅+他の国内資本+純外国資本
(農地が減って他の国内資本が増えている)

・国家資本=私有財産+国有財産
(国有財産の割合は時代によって変化している)

・国の借金はインフレによって小さくなる
(国債を持っている人がインフレで損をする)

 

4.古いヨーロッパからアメリカ大陸へ

・ドイツの特徴は株主だけではなく多様な利害関係者かいるライン資本主義

・アメリカは新世界なのでヨーロッパより資本の変動が小さかった

・カナダは外国資本を割合が高かった

・奴隷制度のもとでは資本が大きくなる

 

5.長期的な資本/所得比率

・β=s/g(貯蓄率/成長率)とも表すことができる

・先進国では1970年代以降にβ(資本/所得比率)が再び高まってきた

・貯蓄率は家計と企業の両方

 

6.21世紀の資本と労働の分割

・資本分配率:労働分配率=α:1−α
 α…国富に占める資本収益の割合
例)30%:70%

・r(資本収益率)は19世紀の5%から現在の3〜4%まで少し低下した

・資本が大きくなると資本の限界生産性は低下するが、βの増加を上回る速度で低下するとは限らない
(資本の限界生産性が低下して総体としてのrが小さくなってもそれ以上にβが大きくなればα(=r×β)は大きくなる)

・α(国富に占める資本収益の割合)は不変ではないし、g(成長率)がゼロになることもない

 

7.格差と集中ーー予備的意味合い

・ヴォートラン(バルザック『ゴリオ爺さん』の登場人物)の教えーー働くよりも結婚して相続するほうが金持ちになれる

・労働よりも資本のほうが格差が大きい

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・社会的な階級ではなく度数の階級で考える

・世襲型の中流階級の出現

 

8.二つの世界(フランスとアメリカ)

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・2つの世界大戦、世界恐慌、税制が理由で格差が縮小

・不労所得生活者(金利生活者)の社会から経営者の社会へ

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・格差拡大が経済危機を招いた(購買力の低下)

 

9.労働所得の格差

・賃金格差は技術を教育が追いかけるという競争から生じるという説
⇒これだけでは説明にならない

・制度の役割(最低賃金など)

・アメリカの最近の格差拡大は高額報酬経営者のせい

・1900年〜1910年にはヨーロッパがアメリカよりも不平等だった

・途上国も同じくらい不平等である

・限界生産性という概念は幻想である(経営者の限界生産性は測定できずお手盛りの危険がある)

 

10.資本所有の格差

・ベル・エポック期のヨーロッパでは格差が大きかったが、20世紀前半に格差が縮小した

・アメリカではその変化が緩やかだった

・r>gなので格差が拡大する
例)r=5%、g=1%であれば、r(利子、配当、地代…)のうち1/5を再投資するだけで資本が維持される

・r>gを説明する一つの理論は時間選好性(一年後の105円より今日の100円)だが、それだけでは説明しきれない

・民法の相続ルールによっても影響を受ける(家督相続か均等相続か)

・現在ではなぜベル・エポック期ほどまでに格差が拡大していないのか
⇒時間がそれほど経っていないから、累進税などがあるから、成長率が高いから

 

11.長期における能力と相続

・相続のフロー
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・b=μ×m×β
 …ある年のフローのうちで相続フローが占める割合
 μ…死亡時の平均財産(全個人の平均財産を1とする)
 m…死亡率
 β…資本/所得
 例1)μ=1、m=2%、β=6ならb=12%
 例2)μ=2、m=2%、β=6ならb=24%(死亡時の財産が多い)
 例3)μ=0、m=2%、β=6ならb=0%(死亡時に財産がない)

・mは2000年あたりを境に上昇に転じる

・死亡が遅くなれば財産も多くなる(mが低下してもμが増大する)

・μは1を超えている

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・1890年〜1970年を除いて相続のほうが有利

・不労所得生活者(金利生活者)と経営者のどちらが有利かは簡単に計算できる
例)資本所有の上位1%が全体の60%の資本を所有していて、給与所得の上位1%が総所得の6%を取っているなら、資本所得:給与所得が1:3であっても、前者は0.25×0.6=0.15、後者が0.75×0.06=0.045と前者のほうが有利である

・小説などに描かれる理想像が不労所得生活者(金利生活者)から能力主義的な人物に変化してきた
(ただし相続財産がなくなったわけではない)

 

12.21世紀におけるグローバルな格差

・資本収益率の格差ーー資本が大きいほどリスクを取れるし投資アドバイスも手に入りやすくなるので収益率も大きくなる

・フォーブス紙に載っているような億万長者が持っている資産の割合が大きくなっている

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・億万長者には相続人もいれば経営者もいる

・大学基金の収益は大きい(一流のファンドマネージャーに相談しているから)

・インフレは資本収益をなくすのではなく、資本収益の分布を変える

・政府系ファンドには不確定な部分が多い(政治も入り込む)

・どこかの国が世界を支配するというよりも、各地の金持ちが世界を支配する
(多くの国で資本収支がマイナスである、つまり過少申告である)

 

13.21世紀に向けた社会国家

・2008年の危機が大恐慌にならなかったのは政府や中央銀行が流動性を高めたおかげ

・20世紀に国家財政が大きくなった(教育、年金、医療など)

・教育制度が社会移動可能性をそれほど促進していない(高い大学の学費など)

・賦課方式年金の問題ーー複雑である、急には変えられない

・新興国は社会国家になっていない

 

14.累進所得税再考

・累進所得税は世界大戦期に考案され、しばらくは格差の縮小に寄与したが、現在では危機に瀕している

・役員報酬が爆発的に増加したのは所得税率が下がったため

 

15.グローバルな資本税

・まずは資本の透明性を高めることが大事、銀行情報の自動送信

・資本税で所得税、相続性、固定資産税を補完できる

例)100万ユーロ(1億3500万円)以下は0%、100万ユーロ(1億3500万円)〜500万ユーロ(6億7500万円)で1%、500万ユーロ(6億7500万円)以上で2%という資本税で、ヨーロッパのGDPの2%の税収がある

・資本税は、私有財産の否定よりも、協働を妨げないという点で効果的

・保護主義、資本統制、資源収益の分配、移民は資本税よりも効果が限定的

 

16.公的債務の問題

・公的債務を資本税で返済するとしたら、100万ユーロ(1億3500万円)以下は0%、100万ユーロ(1億3500万円)〜500万ユーロ(6億7500万円)で10%、500万ユーロ(6億7500万円)以上で20%という一回の資本税で可能

・インフレで公的債務を帳消しにすることもできるが、インフレをコントロールできないおそれがある

・中央銀行は貸し手の頼みの綱
(そうして企業を救うことがよい結果になるか悪い結果になるかはわからない)

・キプロス危機では資本税が徴収されたが、事前の資本情報が不十分だった

・ユーロについてはヨーロッパ全体で取り組まなければならない

・資本蓄積に関して、理論的にr=gとなり得るが、どのような水準がよいのかは良識に沿って決めるしかない
(現在にどれくらい消費して、将来にどれくらい残しておくか)

・そのためにも透明性を高めて資本を民主的にコントロールすべき

 

おわりに

・r>gという矛盾には資本税で対処する

・政治歴史経済学を志向する

 

もっと詳しく知りたい点があればぜひ本文に当たってみてください。

トマ・ピケティ『21世紀の資本』の忠実なまとめとわかりやすい解説」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 批評鍋 トマ・ピケティ『21世紀の資本』 2015年2月21日放送 | 京都アカデメイア blog

  2. ピンバック: ヴォルフガング・シュトレーク『時間かせぎの資本主義』:グローバル化の時代は終わったのか? | 京都アカデメイア blog

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