月別アーカイブ: 2012年5月

タマキサユリ問題

百木です。先日、久しぶりに大学の後輩の玉置沙由里さんとスカイプで話をしました。ご存知の方も多いかと思いますが、玉置沙由里さんはいわゆるノマドブロガーとして有名な方で、ブログ「女。MGの日記」MG(X)プロジェクトなどを主宰し、ノマドとして新しい生き方を実践しておられます。僕は彼女が京都大学の総合人間学部にいた頃からの知り合いで今でも仲良くさせてもらっており、彼女には一昨年の11月祭で京都アカデメイアが主催した公開討論<大学と学問のこれから>にもパネリストの一人として参加してもらいました。

スカイプで議論した内容は「ノマドという生き方は誰にでも実践できるものなのか?」ということでした。これは以前から僕が気になっていたテーマだったので、最近のノマドブームに一役買い、自らがノマド的な生き方を実践してきた玉置さんがその点についてどう考えているのかを聞いてみたかったのです。すると彼女自身、この点についていろいろ思うところがあったらしく、なかなか話は盛り上がりました。そこで議論した内容と、その議論から僕なりに考えたことを簡単にまとめておきます。

そもそも「ノマド」という用語に馴染みのない人もいるかもしれません。ノマドとはもともと遊牧民を意味する英単語ですが、最近では「いつも決まった場所ではなく、カフェや公園、お客さんのオフィスなどでノートパソコン、スマートフォンなどを駆使しネットを介して場所を問わずに働くスタイル」が「ノマドワーキング」として知られるようになりました。その背景にはソーシャルメディアやクラウドなどのネットサービスの発達があります。最近では、ノマドワーカーの一人として人気のある安藤美冬さんが情熱大陸に取り上げられたり、日経新聞で連載特集記事が組まれるなど、ネット界隈やビジネス界を中心にしてその認知度が高まっています。

玉置沙由里さんは自身のブログで「露出社会」「創職時代」「パトロン制度」「合脳主義」「第八大陸」「没落エリート」など、様々にキャッチーな造語を作りながら、プロブロガーとしての生き方を実践してこられました。ノマドについては2年前の2010年時点で「都市ノマド」という概念を提唱し、こんなブログ記事を書いています。もともとはITジャーナリストの佐々木俊尚さんが2009年に『仕事するのにオフィスはいらない』という本の中で「ノマドワーキング」を提唱したのがきっかけだったと思います。

しかし、佐々木俊尚さんと80年代生まれの若者4人が対談したこの記事でも、佐々木さんが冒頭で述べておられますが、ノマドとは本当に誰でも実践できる生き方なのか?ノマドはノマドで結構厳しい生き方なのではないか?という疑問や批判も最近ではなされるようになってきているようです。数ヶ月前に、浅野さんが岡田斗司夫さんの講演会内容をまとめたブログ記事で彼の提唱する「3万円ビジネス」や「評価経済社会」について書いておられましたが、その記事を読んだ僕の正直な感想は「うーん、それって会社勤めよりも大変な生き方なのでは??」でした。(同じ疑問は「就活」をテーマに議論した第2回アカデメイアカフェでも出ていました)

例えば岡田さんは「就職のオワコン化」にたいして「3万円の仕事を10個、1万円の仕事を10個、無償の仕事を20個、マイナスの仕事を10個の計50個くらいの仕事をする」という3万円ビジネス的生き方を提案しておられるわけですが、はっきり言って3万円ぶんのビジネスを50個やるって相当なブラック企業並みの働きっぷりになるのではないでしょうか。浅野さんも自分自身それに近い生計の立て方をしていると言いつつ「50個というのは体力的にも時間的にも無理」と書いておられます。僕も同じ意見です。もちろん岡田さんが言いたいのは、すべての人に50個分の仕事をしろということではなく、それぞれの能力や希望所得に応じてできる範囲のことをやればいよい、ということなのでしょう。ただしそのことを考慮したとしても、やはり3万円ビジネスや評価経済社会的なワークスタイルで生計をずっと維持していける人はさほど多くないのが現状であると思います。(岡田さんが提案する50個の半分=25個の仕事→月収20万円を毎月継続的にこなしていくだけでも結構大変なのでは)

では、「ノマド的生き方がすべての人間に実践できるわけではない」とすると、それを実践できる人と実践できない人を分ける境界線は何でしょうか。ひとまず思いつくままに列挙すると、「コミュニケーション能力」「社交能力」「露出耐久力」「流動性への耐久性」といった能力・性格ではないでしょうか。

例えば玉置さんのユニークな造語のひとつに「露出社会」がありますが、ソーシャルメディアやスマートフォンを活用してノマド的生き方を実践していくためには、かなりの程度まで自分がどういった人間であり、普段何を考えている人間であるのかという個人情報をネット上に晒していくことが必要になります(ほとんど素性が知れないような人間にたいしては、ネット上でも仕事や寝る場所を提供しようという人は現れないでしょうから)。このような「露出耐久力」がある人にとっては、それはむしろ楽しいことなのかもしれませんが、そういった「露出」に抵抗を感じる人も多いはずです。「ダダ漏れ女子」で有名になったそらのさんがある日の放送をきっかけに叩かれまくった例などを見れば、露出への恐怖を感じる人も多いのではないでしょうか。

また「これからの時代は企業や組織に属さなくても、ソーシャルメディアなどの繋がりから仕事や居場所をGetできる!」という場合にも、見知らぬ人と積極的にネット上でやり取りをしたり、積極的に人脈を広げたり、人に会いに行ったりする社交性やフットワークの軽さが必要になります。企業や組織に属していれば、自由度は制限されるけれども、安定した人間関係のなかで仕事ができる(さほど社交能力がなくても仕事ができる)というメリットがあります。このあたりは人によってどちらを働きよいと感じるかが分かれるところでしょう。流動的な環境が好きか、固定化された環境が好きか、という違いかもしれません。

こういった「コミュニケーション能力」「社交能力」「露出耐久力」「流動性への耐久性」などの能力・性格を持っている人にとっては「ノマドワーキング」や「ノマド的生き方」は新しい可能性を切り開く希望に満ちた働き方・生き方かもしれませんが、そのような能力・性格を持たない人にとってはそれは今以上にしんどい・辛い働き方・生き方になるかもしれません。つまりは、「ノマドはごく一部の能力や性格をもつ特殊な人たちにしか実践できない生き方である」にもかかわらず、「これからの時代はノマド的な生き方が新しい!そうしないと生き残っていけないよ!」という規範意識(言説)が形成されてしまう現状があるのではないでしょうか。仮にこれを「タマキサユリ問題」と名づけておきます(笑)

僕はべつにノマド的-評価経済的な生き方を批判したいわけではありません。閉塞感ばかりが高まる昨今の日本社会において、そういった新しい自由な生き方が可能になったこと自体は良いことだと思いますし、そうした新しい生き方を実践する人たちがたくさん出てくることで、日本社会を良い・面白い方向に変えていってくれるのであればそれは歓迎すべきことだと考えています。ただし、僕が警戒的なのは「いまや会社や組織に依存した生き方はもう古い。そんなやり方ではもう生き残っていけない。これからはノマドの時代で、みんなノマド的な生き方・働き方を実践していくべきだ」という言説に対してです。あえて戦略的にやっておられるのかもしれませんが、例えばネットジャーナリストの佐々木俊尚さんや梅田望夫さんなどの発言からは、端々にそういった「べき論」を感じ取ってしまいます。最近はややスタンスを変えているようですが、少し前までの玉置さんの発言からも僕はそのような主張を読み取っていました。

そこで先日のスカイプではそのあたりの疑問をいろいろ玉置さんにぶつけて訊いていたのですが、予想以上に話が盛り上がったので、これは京都アカデメイア×玉置沙由里でust中継でラジオをしようよ!という話になりました。先日の記事でも書いたとおりですが、6月2日(土)の20時~ust中継をすることになりましたので、関心ある方はぜひご視聴ください。当日のコメント参加や事前の質問受付なども募集しております。よろしくお願いします。

<京都アカデメイア×玉置沙由里 ustream中継>
テーマ:ノマドと知のこれから~ブロガー玉置沙由里に聞く
日時:6月2日(土)20時~

URL:http://www.ustream.tv/channel/kyoaca
参考:玉置さんのブログtwitterfaceboook現代ビジネスでの連載プロフィール

京都アカデメイア×玉置沙由里 ust中継 「ノマドと知のこれから~ブロガー玉置沙由里に聞く」

 

百木です。
今月はスタッフがそれぞれに忙しく、イベントを開催することができずに終わってしまいました。すいません。

その代わりに、6月2日(土)の夜にブロガーの玉置沙由里さんとustream中継をすることになりました。
玉置さんは僕たちの学部の後輩にあたり、「プロブロガー」としてネット上で活躍しておられます。
最近ネット上で話題の「ノマド」という言葉を広めるのに貢献した一人でもあります。
そんな玉置さんに「ノマドと知のこれから~ブロガー玉置沙由里に聞く」というテーマで、
いろいろ質問をしてみたいと考えています。
今回はシェアハウスからust中継をおこなうので、公開参加というかたちは取らない予定ですが、
関心ある方はust上でコメント・質問など頂ければ幸いです。お時間ある方はぜひご視聴ください。
(もし玉置さんに聞いて欲しいことなどあれば事前に受け付けますのでメールください)

<京都アカデメイア×玉置沙由里 ustream中継>
テーマ:ノマドと知のこれから~ブロガー玉置沙由里に聞く
日時:6月2日(土)20時~
URL:http://www.ustream.tv/channel/kyoaca
参考:玉置さんのブログtwitterfaceboook現代ビジネスでの連載プロフィール

また、ust中継が始まる前の時間帯にアカデメイアのシェアハウスで食事会をやります。
ごく私的な食事会ですが、毎月一回ほど有志で集まって情報交換や異分野交流をすることができればと考えておりますので、もし関心ある方いらっしゃればご連絡ください。
よろしくお願いします。

ルネの花壇

こんにち(む)です。
先日ひさびさに京大に行ってみましたらば、西部生協「ルネ」前の花壇に、薔薇がきれいに咲いていました。
しかしそこには、悲しいお知らせの貼り紙が!
なんでも、ルネの耐震工事のため、花壇は今年夏で取り壊されることが決まっているそうです。

f:id:kyotoacademeia:20120518133955j:image:w360

f:id:kyotoacademeia:20120518133940j:image:w360

毎年きれいな薔薇を咲かせるこの花壇には、在学中よりしばしば心慰められておりました。
取り壊しは寂しいのう……工事後は花壇も復活するのやろか。
と思うと同時に、これまで花壇の世話をしてこられた方(ルネの職員さんなのでしょうか??)に感謝であります。お疲れ様でした!!毎年楽しみにしておりました。

f:id:kyotoacademeia:20080521225819j:image:w360

f:id:kyotoacademeia:20080521225754j:image:w360

f:id:kyotoacademeia:20080521225701j:image:w360

見事に咲いておるので、京大生や近隣の方は東大路を通る際に見てみてください。東大路通に面しております。
きょーあかとは関係ない記事でしたが。ではまた。

さいきんの勉強会と畑

みなさんこんにちは(む)です。
昨日は、最近始まったテンニースの読書会に出ました。
『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』の復刻が、岩波文庫から出たとのことで。

テンニースは社会学の大物らしいですが、翻訳はこれ一冊しかなく、これもあまり読まれていないようです。だが、社会のあり方が変わりつつあり、共同体のあり方などなどが考えられる昨今、これはよんでおくとよいのでないか、というFさんの発案で読書会は始まりました。
今回は最初のほうをちょこっと進みました。テンニースは小難しいこと言うタイプの人ではないようですが、時代背景や当時ホットだった思想などが分からんと読みづらい部分が多く(「この人何を前提にこんなこと言い出すの!?」みたいな箇所が多い)、人と一緒に読むとそういうとこ誰かが教えてくれたりするんがいいですなあ。

昨日は「ゲマインシャフトは何か」という話が始まったあたりを読んだんですが、「結婚はゲマインシャフトらしいが、結婚しない恋人たちは?」とか「母子関係がゲマインシャフトの中心とされているのはなぜか」などが論点となりました。後者に関しては、当時民俗学で流行った母権社会論の影響があるそう。
この会はまだまだ続きそうです。先は長い!

また先日は、ひさしぶりに数学の会が開かれました。線形は「対角化」の分野を、微積は「偏微分」の分野を終え、かなり達成感……。
まだまだ完全には理解できていませんが。
数学は、たとえば「連続」とかいう、普段自明だと思っている概念をいちいち定義せねばならないところがおもしろい。そのたびに はっ! となるよ。
だから実は数学って(いわゆる)文系にとってこそ面白いんやないかと思うんですがね。
こちらの会も新規参加者さん歓迎です。興味ある方はぜひ。

この日は、普段宮城でボランティアをしている(み)くん(京アカ唯一のアクティヴ男子)も来てくれて、宮城での話を聞くことができたのもよかった。

___

話変わって畑の近況。
だいぶ前ですがごーるでんうぃーくに耕し&種まきしました。
耕したらみみずさんがうにょうにょ出てきたで。

各種夏収穫用の種を撒きました。早速シソさんがわさわさ茂りだしてうれしい限り。
それまでなかなか手入れができず、荒れ畑になっておりましたが、それはそれで面白い風景でもありました。

ねぎぼうずができてしまった

f:id:kyotoacademeia:20120506144759j:image:w360

変わり果てたハクサイの姿

f:id:kyotoacademeia:20120425161219j:image:w360

お花部分はゆでて醤油をつけるとおいしい

f:id:kyotoacademeia:20120506200619j:image:w360

残ったお花は飾った

f:id:kyotoacademeia:20120518163747j:image:w360

この日は、東京の大学から、見学の方も見えました。
農地とネットワークについて興味をもって研究しておられ、いろんな農地を訪ね歩いてはるそうです。
ちょっと農業やってみたいけどきっかけがない、という若い人をつなぐことができれば、と言うてはりました。たしかに、ガチ農業じゃなくてちょこっと興味はあるが、土地もないし機会もない、って人はけっこういるんでないかとおもいましたよ。

そんな感じです。ほなまた。

5月作戦会議議事録

浅野です。5月の作戦会議の内容をお伝えします。

1.アカデメイア・カフェ
第4回の「ハシズムを考える」はおかげさまで盛況でした。踏み込みが足りない部分もありましたが、意見や立場の異なる人たちが率直に議論できる場を作ることができたのはよかったです。次回のアカデメイア・カフェについては未定です。

2.ハウスと畑
京都アカデメイア周辺にはハウスと呼ばれるシェアハウスのような場所や借りている畑があります。ハウスでは読書会などを行うことができます。また、6月からは第一土曜日に食事会をすることも考えています。5月の連休中には畑を見学したいという方に来てもらいました。ハウスや畑に興味があるかたはお問い合わせください。

3.Web関連
京都アカデメイアのホームページのリニューアルをしました。まだ不具合が多く、デザインも洗練されていません。ホームページに情報を蓄えつつ、ブログでは比較的長い文章を載せ、twitterとfacebookでまめに情報を流すことを心がけたいです。

4.新年度に向けて
新年度になって一月以上が過ぎました。そろそろ京都アカデメイアにとっての新歓の時期です。4月の新歓に乗り遅れたという方も大歓迎ですのでよろしければお問い合わせください。とはいってもメンバーのはっきりとした線引きがあるわけではありません。気が向いたときにイベントや作戦会議に来ていただけたらいいですし、そうしたイベント情報などを流すメーリングリストに加入を希望されるようでしたらその旨お問い合わせください。作戦会議は毎月第二金曜日の夜に行う予定です。

5.お金関係
京都アカデメイアの運営そのものにはそれほどのお金がかかっていません。しかし活動を持続させるとなると収入が得られる仕組みがあったほうがよいです。大学に就職するのが極めて難しい大学院生や卒業生にとっては少しでも収入が得られる場があるというのは非常に大きなことです。これからは積極的にカンパを募ろうということになりました。その節はよろしくお願いいたします。

京都アカデメイアへのお問い合わせ

第4回アカデメイアカフェ「ハシズムを考える」まとめ

百木です。先日の第4回アカデメイアカフェ「ハシズムを考える。」の簡単なまとめです。論点が多岐にわたったので、とてもすべての議論を網羅することはできませんが、大まかにでも当日の雰囲気が伝わればと思います。

当日の参加者は15名程度でした。大学生と社会人が半々程度で、アカデメイアカフェに初参加の人と以前参加したことがある人も半々程度だったと記憶しています。いわゆる「ハシズム」に対して強く言いたいことがある!という人と、正直に言ってこれまで橋下徹市長に強い関心を持っていなかったがなんとく興味をもって参加してみたという人も両方いて、(結果的に)バランスの良い構成になったかなと感じています。

◆橋下改革の政策内容について(前半)

議論の始まりは、橋下市長の文化政策についてでした。橋下市長は、財政改革の一環として、交響楽団や文楽協会や児童図書館への補助金を大幅カットor廃止するなどの政策を進めてきました。この文化政策にたいして、「橋下さんは自分の価値観で理解できないオーケストラや文楽などの伝統文化をすべて切り捨てようとしているのではないか」という意見が出ました。橋下市長個人の価値観を大阪全体の政策に反映しようとしているのはけしからん、という意見です。この意見にたいしては、しかし大阪市・府の財政状況が厳しいことは事実で、市民・府民の税金を使ってそういった文化を補助し続けることは果たして適切といえるのか、なぜオーケストラや文楽などのハイ・カルチャーだけが特権的に保護されるべきといえるのか、といった反論が出ました。

この件に関して、橋下市長がよく言っているのは「伝統文化も大衆娯楽も、同じ土俵で競争するべき」ということです。自分は別に文楽などの伝統文化が悪いと言っているのではない、ただそれらが伝統文化であるというだけで無条件に補助金を受けていることが問題なのであって、補助金なしに市場競争で勝ち残るなら何の問題もない、と。いわば橋下市長は、これまで特権的に保護されてきた伝統文化に市場的な「競争原理」を持ち込もうとしているわけですが、これはなかなか難しい問題だと思います。文化や芸術に愛着のある人にとっては、そういった文化や芸術は市場競争の中では生き残っていくのが難しいので、補助金をつかって保護されるべきだし、そのことが大阪(あるいは関西)にとってもプラスになるはずだ、と主張します。他方でそういった文化や芸術にさほど思い入れのない人にとっては、それらの文化も吉本のお笑いや他のエンターテイメントと同様に市場競争の枠組みで切磋琢磨すべきではないか?という意見になるでしょう。

議論はここから発展して、伝統文化・芸術は公的に保護されてでも伝承されるべきという「京都のお公家さん」的志向と、伝統文化も大衆娯楽も同じ土俵で戦えば良いのでは?という「大阪の庶民」的志向の違い、などにも話が及びました。さらに、大阪には地域の文化や伝統を担っていく「町衆」的存在があまり残っていないのではないか(そういった人々は阪神神戸あたりに移住してしまった?)といった意見も出て、どこまで信憑性があるのか僕自身は判断できないのですが、議論は盛り上がって興味深かったです。

これまで公的に保障されていた分野に「競争原理」を持ち込もうとする橋下市長の態度は、文化政策に限ったものではなく、教育や地域自治、社会保障、公共サービスなどに関しても共通して見られるものです。4年間の「橋下改革」をまとめた記事がしんぶん赤旗に載っていますが、中小企業予算の大幅カット、敬老パスの有料化、学童保育の補助金廃止、区民センターの統廃合、公共交通機関の民営化促進などが「改革」の内容として挙げられています。やまもといちろうさんがブログで「しんぶん赤旗の橋下徹批判が、読む人にとっては絶賛にしかなっていない件」という記事をあげてらっしゃいましたが、これらの改革内容を肯定的に捉えるか否定的に捉えるかで橋下市長への評価が別れるところでしょう。

また、「大阪の財政は苦しいと言っているが、他地域から見ればとてもそんな風には見えない。大阪の中心部はあんなに栄えているし、裕福な人もたくさん住んでいるではないか、大阪が貧しいなんていうのは嘘ではないか」という意見もありました。これに対しては、大阪出身の方などから「それは大阪の一面的な部分しか見ていない、中小企業や自営業などで働いている大阪庶民の暮らしはかなり苦しい」という声があがりました。この点についても、人によってまったく見え方が違うところなので難しい問題です(この点に関して、明確な答えは出ませんでした)。

さらに、どういった層が橋下市長を支持しているのか?という疑問も出ました。比較的に裕福な層が支持しているか、それとも意外に低所得層が支持しているのか(小泉純一郎フィーバーの際には、結果的に自分の首を絞めることになるであろうに、低所得者層が小泉氏を支持したことが話題なりました)。後日、社会学者の櫻田和也さんが分析しておられる橋下支持率と区分析を見ると(平均世帯年収老齢人口率失業率転入率)、基本的には平均年収が高く老齢人口率が低い区ほど支持率が高いようなので、少なくとも一口に「低所得若年層が橋下を支持している」とは言えなさそうな気がします。この点については、他に分析した論文などもあるようで、検討が必要なところでしょう。

◆橋下改革の政策手法について(後半)

カフェの後半は、橋下市長の「政治手法」をめぐってでした。橋下市長の政治手法の特徴としては、1)メディアパフォーマンスが上手い、2)世論の支持を味方につける、3)トップダウン式に強引にでも改革を進める、などが挙げられるでしょう。これらを一言でまとめれば「ポピュリズム」的手法だと言うことができるかもしれません。ときには嘘をついたり、違法スレスレの手段を使ってでも、「スピーディーな改革」を実現しようとする姿勢には「独裁的」との批判もありますが、橋下市長本人も「改革のためにはある種の「独裁」が必要だ」と開き直った発言をしています。
その背景には、多くの国民が民主党政権にたいして感じている「決定できない民主主義」への不満・苛立ちがあると考えられます。消費税を上げる・上げないをめぐっても延々と議論がもめていて重要な決定が何もなされない、311後の対応も後手後手に回っていて復興がなかなか進まない、など。そういった閉塞感を打ち破る存在として、橋下市長の「決断主義」「独裁主義」が支持を集めているのではないか。

このような橋下市長の改革手法は本当に「強引」と言えるのか?という疑問も出ました。これに対しては、4年に1度の選挙で代表者を選び、その人に対して「白紙委任」をするという現在の間接民主制じたいに問題があるのではないか?という大きな問いが出されて議論が広がりました。つまり、選挙時点ではすべての細かい政策方針について同意したうえで立候補者に投票するわけではなく、その立候補者の全体的なイメージや大きな政治方針に賛同して投票したにすぎないところが、実際にその立候補者が当選して政策を実施する段になると、様々な面で有権者と政治家の間で意見の食い違いが起こってきてしまい、当初の期待が裏切れてしまう結果になる、ということです。こうした間接民主主義の限界をどのようにして乗り越えればよいのか?という所までは答えが出ませんでしたが、ハシズム・橋下現象をきっかけにして、こうした大きな政治論点にまで議論が及んだのは良かったのではないかと思っています。

また、個々人の思想信条にまで介入し、憲法に違反するような政策を実施する(君が代条例問題、職員への思想調査アンケートなど)ような橋下市長の政策は絶対に許すことができない、という「全否定」派と、全面的には賛同できないけれども個々の政策によっては支持できる部分もあるのではないか、市民の側がうまく橋下市長をコントロールしていくことも可能ではないか、という「是々非々」派との間でも意見が別れました(橋下市長全面賛成派はいなかったように思います)。これについてもどちらの意見が正しい、という明確な答えは出ませんでしたが、アカデメイアカフェは明確に一つの結論を出すことを目的としているわけではなく、様々な立場の人が集まって様々な意見を交換しあい、ひとつの社会問題に対していろんな意見をもった人がいるのだ、ということを理解してもらえれば良いと考えているので、これで良かったのではないかと考えています。

以上、長文でとりとめない内容となりましたが、おおまかにでも当日の議論の雰囲気が伝われば幸いです。今回のアカデメイアカ フェは参加者も多めで、年齢層や属性も幅広く、議論も白熱して大変良い会になったのではないかと自負しています。最後に一言ずつ感想をもらったのですが、 今回の議論をきっかけにして橋下改革に関心が湧いた、普段は聞けないような話が聞けてよかった、自分とは異なる立場の人の意見が聞けて思考の幅が広がっ た、などと言っていただき大変ありがたかったです。また今後も定期的にこのようなイベントを開催していければと考えていますので、みなさんどうぞよろしく お願いします。機会があればいつでもお気軽にご参加ください。

『ART CRITIQUE』第2号発売!

百木です。今日はちょっと宣伝をさせてください。
僕たちの友人の櫻井拓くんが編集・発行している雑誌『ART CRITIQUE』の第2号が発売になりました。『ART CRITIQUE』は美術批評を中心としたインディーズ雑誌で、美術批評の他にも経済、文芸、社会思想、哲学など多彩なコンテンツが掲載されています。

この雑誌はあくまで櫻井くん個人が編集・発行している雑誌なのですが、コンテンツの一部には京都アカデメイア周辺の人たちも対談に参加したり、論考を寄せたり、取材に協力したりしています(櫻井くんは数年前まで京大の大学院で一緒に勉強をしていました)。僕(百木)も柴山桂太先生(滋賀大学准教授)へのインタビューに協力させていただきました。

f:id:kyotoacademeia:20120501182108j:image

雑誌の内容について詳しくはこちらのサイトを見て頂ければと思うのですが、アートレビューをはじめ、詩人とアーティストの対談(ともに櫻井編集長の注目株だそうです)、経済学についてのインタビュー、「アジール」についての座談会、芸術・社会思想に関する論考など、実に興味深く刺激的なコンテンツばかりです。

僕も先日、現物をもらったばかりでまだ全てに目を通せてはいないのですが、ひとまずチェックした詩人×アーティスト対談とアジール座談会と社会思想の論考はどれも面白いものばかりでした。とくに「アジール」対談は、僕の所属している人間・環境学研究科の先輩にあたる舟木徹男さん、信友建志さん、小林哲也さんなどが参加しておられ、いろんな意味で大変楽しめました。グローバル資本主義のもとで社会が流動化し、インターネットやソーシャルメディアが発達した現代社会では、「アジール」は従来とはまた違った意味合いを帯びて再構築されてくるのかもしれませんね。網野善彦が『無縁・公界・楽』などで行なっていた議論が、現代日本で文脈を変えて再登場してくるのは大変興味深いことです。

また、インタビュアーの自画自賛のようになりますが、柴山桂太先生へのインタビュー「経済学は“ストック”を思考できるか?」も大変面白い内容になっていると思います。「成長主義か脱成長主義か?」という質問から始まり、そもそも経済学のなかで成長理論が登場してきたのがここ数十年のことであること、一口に経済成長といっても様々な種類があること、現在の経済学は「フローの成長」ばかりに注目して「ストックの重要性」への視点が欠如していることなど、様々に重要な指摘がなされています。柴山桂太先生は、『TPP亡国論』で有名になった中野剛志さんとの対談本を出されるなど、最近注目を集めておられる経済学者(という枠に当てはまらない方だと思いますが)です。興味ある方はぜひチェックを。

また今回の第2号は表紙の装丁も大変かっこいい!アーティストの魚住剛さんによるものとのことですが、デザインが美しくスマートな印象で素敵です。そして中身を開いてみると、多様で濃い内容のコンテンツがぎっしりという(笑)身内贔屓を自覚しつつ、「アート×学問」というテーマでこれだけの強度とセンスをもった雑誌は現在なかなかないのでは…と本心から思っております。
関心を持たれた方はぜひご購入を。こういった意欲的な試みをもつ若者を支援するつもりで手にとってもらえると、僕としても嬉しいです。

購入希望の方は、これらの書店オンラインショップからの購入が可能だそうです。ぜひよろしくお願いします。