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最近読んだ本

村田です。最近、連続して韓国の小説を読んだので紹介します。どれも話題作だったものです。

● ミン・ジヒョン『僕の狂ったフェミ彼女』加藤慧訳、イースト・プレス、2022.

原著は2019年。作者・訳者ともに1986年生まれ。

別れた彼女が知らないうちに「メガル」(先鋭化したフェミニストを指す韓国のネットスラング)になっていた! という話。韓国の若者風俗やネット事情が分かるのが良かったです。
「僕」は「イデオロギーとしての『フェミ』には理解を示さないが悪いやつではないし共感力もある」みたいな男性像でリアルでした。「僕」の視点から「彼女」の様子が描かれるのですが、「僕」の一人称語りを徹底することで彼女の内面に直接触れられないようになっているのが面白かったです。

物語の本筋には関係ないかもしれない細かいところですが、印象的だったのは「課長」の話。「彼女」が「課長」の話を始めたとき私も男性をイメージして読んでしまっていて、ここで自分もジェンダーによる固定的イメージ(「管理職=男性」)にとらわれてた!と気づいてはっとなったのでした。多くの読者もそうではないかな? とすると、本書を読む人は「フェミ」寄りの意識の持ち主が多いと思われますが、ここで語り手の意識に沿うことができるようになっているのかなと思いました。(まあ最初から非男性を想定して読んでいた人もいるかもですが……)

 

● チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』斎藤真理子訳、ちくま文庫、2023.

原著は2016年、ハードカバー版邦訳は2018年。映画にもなった(未見)話題作ですが今更読みました。ヒット作なのでもっとポップな小説なのかと思ったら、こんな本だったのか!と吃驚。

ひとりの女性「キム・ジヨン氏」の半生と家族の歴史が淡々と語られるのですが、何か目立った大事件は起きません。大きな不幸や珍しい不運もなく、大学にも進学できて苦労はしたが就職できて善良な男性と結婚したキム・ジヨンは、どちらかといえば恵まれた人に見えます。しかしその人生の中にいくつも、女性であるゆえに蒙らざるをえなかった理不尽が潜んでおり、註の形で付された歴史的背景や統計資料により、それが彼女ひとりの問題ではないことが浮き彫りにされます。

「キム・ジヨン」は1982年生まれの韓国の女性に最も多い姓名とのこと。私はジヨンよりやや年上ですがほぼ同世代。ジェンダーをめぐる日本と韓国の事情は、よく似ているところと異なるところがあると思われますが、自分にも覚えのある出来事や思いがいくつもありました。そうした「あるある」ゆえのヒットなのでしょう。「お母さんは自分の人生を、私のお母さんになったことを後悔しているのだろうか」という前世代の女性である母への思い。品質が向上する以前の生理用ナプキン。学校やバイト先でのセクハラ(些細であるゆえに告発しづらいものも含む)。存在はするのに使うのに気が退ける制度(戸主制度はなくなったのに特別な理由のない限り母方の姓は選びづらい)。などなど。
物語は、ジヨンの解離のような憑依のような症状(?)から始まるのですが、その症状の中で複数の女性が現れるのは、本作が多くの女性の物語になっていることの隠喩のようであるなあと思いました。

文庫版では、作品の歴史的背景、作品発表時とその後の韓国でのフェミニズムの状況、また作品内の或る仕掛けについての解説が付されています。

 

● ハン・ガン『菜食主義者』(新しい韓国の文学01)、きむふな訳、クオン、2011.

「韓国で最も権威ある文学賞、李箱(イサン)文学賞を受賞」したという作品です。原著は2007年。

表題作に続き「蒙古斑」「木の花火」の連作で、主人公である主婦「ヨンヘ」を巡る話が、それぞれ異なる登場人物に視点をおいて描かれます。

表題作はヨンヘの夫の視点から書かれ、「妻がベジタリアンになるまで、私は彼女が変わった女だと思ったことはなかった」という一節から始まります。平凡で地味な主婦であった「ヨンヘ」はある時から突然肉食を拒絶するようになります。それまで普通に肉料理(これらの描写が皮肉にも実にうまそう!)も作っていたというのに。

今回読んだ三作は(話題作ということで読んだので特に意図をもって選んだわけでないのに)偶然にもすべて、「変わってゆく女を男が眺める」という図式になっていました。『僕の狂ったフェミ彼女』は、普通の可愛い女から「メガル」になってしまった彼女を「僕」が眺め、『82年生まれ、キム・ジヨン』は、突然憑依を起こした妻を夫が眺め、本作では「菜食主義者」になってしまった妻を夫や父が苛立ちとともに眺める。

しかし本作でヨンヘがなろうとするのは、実は単なる「菜食主義者」ではなく、その肉食拒否は明確な理由は語られません。彼女が志向するのは植物への生成変化のようなものであることが連作の中で明らかになってゆきます。自分の身体が(というか身体があることが)厭で仕方なかった十代の頃に読んだらばより共感したであろうなあ、と思いながら読みました。どうやら食が「家族」と結びついているらしい点、ヨンヘの生成変化がそこからの離脱であるらしい点も。「木の花火」では視点がヨンヘの姉に移るのですが、この姉妹の関係は、どこか少し小川洋子『妊娠カレンダー』を思い出させました。

 

最近読んだ本

こんにちは。暑くなったり涼しくなったりの日々ですね。
今年は京アカブログにたくさん投稿しようと思いつつ既に挫折しておりましたが、最近読んだ本の紹介です。

白石良夫『古語の謎――書き替えられる読みと意味』中公新書、2010.

インパクトのある帯が気になって読みました。
帯の通り、第一章は、万葉集の柿本人麻呂の歌、「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」の謎の探索から始まります。
有名なこの歌はしかし『万葉集』では「東野炎立所見而反見為者月西渡」と表記されており、もともと何と詠まれていたかは分からない。実際にかつては「東野」を「あづまの」とするなど異なる訓で読まれていたのに、18世紀以降に現在の訓が定着した、とのこと。謎解きのようにその過程が探られていきます。

第二章以降はそれぞれ別のトピックが扱われているのですが、全体を通して分かることは、江戸期の古学・国学の役割とその影響力。
「文献を考証して古の言葉を知ること=オリジナルへの遡及」という考え方が提唱され、古の言葉を知るだけでなくそれを使いこなすべしとされ、かつそれが一般化する中で、「江戸時代に生まれた架空の古語」のようなものも登場します。古に遡及しようとする中で、偽書や贋物が現れたことも。しかし、そうした贋物を単にけしからん紛い物とするのでなく、学問の副産物としてポジティブにとらえその存在ごと歴史資料として認めようとするのが、本書の面白いところでした。

日本文献学の営みを問い直す終章では、「オリジナルこそ最も尊重すべき」とする考え自体が問われます。私は実は大学時代は国文科だったのですが、本文異同を検討したり註を付けたりという文献学的な授業を受けながら「自分が何を教えられているのかよく分からない」完全なる劣等生であったので、本書を通して少し、「あれはああいうことだったのか」と分かった気がします。

ところで贋物といえば、これも終章で扱われている「神代文字」の話は個人的に大好きなのですが(胡乱なものや架空の文字が好きであるため)、「神代文字」で検索すると夥しい書籍やウェブサイトがヒットしてしまい、未だ真面目に扱われ(たり商売に使われたりし)ていることが分かります。

 

NHK Eテレ「toi-toi 」「役に立つってどういうこと?」初回感想です

NHK Eテレ新番組「toi-toi 」 脳性まひ当事者の視点から、思うように動かない自身の体を哲学的に解明した今回の主人公・河合翔さん(京アカ会員)は今後もレギュラー出演されるそうです。その他の出演者も、発言から醸し出される雰囲気が、私にはとてもよいものでした。内容の一端:
 問い:「役に立つってどういうこと?」には~
・働いたり社会貢献していなくても「ただいるだけで役に立つ」ことがある(例:車いすユーザーが街を歩いているだけで他の人の見方考え方を変える)、
・「自分が役に立つ立たないを考える必要はないのでは」「価値は自分が決めるもの」
・「役に立つのは大切だけど、役に立たなければいけないというふうになると怖い」
などが出されていました。
 問い:「言葉が伝わらないと役に立たないのか」には、
・「ゆっくり伝わる」「身体で伝えることを読み解く」など、焦らない、時間の大切さがあげられていました。

(感想)役に立たないものの価値をどれだけコトバにして伝えられるか、みたいな挑戦は、私もしていきたいです。役に立たないもの が 言葉にもできず、役に立たないままで、それでも認められるのがよいのでしょうが、そうすると、役に立つもの ばかりの世の中になりそうなので、役に立たないものを言葉にして承認して応援したいです! 皆さんは、どんな感想を持たれましたか。

アークタンジェント公式の代数的証明

以前のブログではアークタンジェント公式をProof Without Words風に視覚的に証明しました.
今回はNelsenさんの論文を参考にして代数的に証明します.
その様子をPDFファイルにまとめました.
計算式だけで単調ですが良かったら見て下さい.

PDFファイル

作成: 藤原大樹
更新: 2024年2月25日

 

角の二等分線定理

今日は平面幾何学の”角の二等分線定理”を勉強しました。
この定理は、小学生でも知っている大変有名な定理です。
しかしながら、お恥ずかしい話ですが、今日産まれて初めて証明を知りました。
そこで理解を深めるために3つの証明をPDFファイルに要約しました。
どの証明も個性的でイラストを見ているだけで胸が躍ります。

PDFファイル

作成: 藤原大樹
更新: 2024年2月24日

数学パズル(その2)

はじめに

数学パズル(その1)の続編です。
今回は折紙パズルが多くなりました。
皆様、是非とも自分で考えて楽しんで下さい。

問題1

別の折紙パズルに挑戦します。

[問題]
正方形を2本の直線で切り離し、平行移動して並べ替えて正方形と同じ面積の長方形にするには、どうすればいいのか?
ただし、正方形の対角線≧作る長方形の長辺>正方形の一辺とします。

[出典]
文献[1]の7ページ

[コメント]
ちょっとだけ考えました。
2本の直線を見つけるだけなので簡単と思えましたが、実体は難しそうです。
腰を落ち着けて取り組みたい問題です。

閃いて、自力で解くことができました。
ヒントの画像を置いておきます。

 

問題2

更なる折紙パズルを考えます。

[問題]
長方形を2本の直線で切り離し、平行移動して並べ替えて長方形と同じ面積の正方形にするには、どうすればいいのか?
ただし2回のカットで正方形ができるのは、長辺<短辺×2の長方形用紙です。

[出典]
文献[1]の8ページ

[コメント]
超難問の気配を感じます。
まずはコピー用紙(白銀矩形)で考えると良いような気がします。

7ページの変形を逆に行えば、長方形から長方形を作成できそう。

さっぱり分からないので解答を見ちゃいました。

ヒントの画像を置いておきます。

カットするのは、2本の赤の線分です。

アルゴリズムの正当性は「2本の赤の線分が同じ長さかつ垂直に交わる」で保証されます。

この正当性の証明も自力では無理でした。

問題3

次は軽めの問題にします。
でも面白いと思います。

[問題]
コピー用紙(白銀矩形)を用いてタンジェント22.5°を求めよ。
白銀矩形とは長辺と短辺の比がルート2の長方形である。

[出典]
文献[2]

[コメント]
この問題は自力で解けました。嬉しい。
ヒントの画像を置いておきます。


ポイントは、青の3角形が2等辺3角形になることです。
赤の3角形に注目すると、タンジェント22.5°がルート2マイナス1となります。

問題4

ネットで凄いウワサをキャッチしました。
ルート2の無理数性を折紙で証明できるらしいです。
真偽を確かめたいと思います。

[問題]
折紙を用いて、ルート2が無理数であることを証明せよ.

[出典]
文献[3]の102ページ

[コメント]
ウワサは本当でした.

証明のポイントと画像をメモしておきます.

ルート2を有理数a/bと仮定する.
a, bはそれぞれ自然数である.
画像の通り折紙をする.


赤の3角形は元の3角形と相似なので,
ルート2 = (2b – a)/(a – b)となる.
1 < a/b < 2より, a > 2b-a > 0かつ b > a-b > 0が成立する.
よって, ルート2をa/b → (2b – a)/(a – b)とする代数的操作は有限回しか繰り返せない.
その一方で元の3角形から赤の3角形を折紙で構成する幾何学的操作は無制限に何回でも繰り返せる.
代数的操作と幾何学的操作の間に矛盾が生じる.
よってルート2は無理数である.

問題5

次は錯視を用いたパズルです.

[問題]
以下のサイトの画像にある立体図形をコピー用紙1枚で作成せよ.
https://www.cutoutfoldup.com/1102-impossible-flap-.php

[出典]
文献[4]の72ページ

[コメント]
うーん、悩ましいです。どうやったらこんな物を作れるんだ?

実際に工作をすると5分で解けました。


3本の赤の線分を切ります.
そして、横線を回転軸として紙を少しひねると完成です.
画像を見ているだけだと全く分かりませんが、実際に工作してみるとすぐ理解できます。

参考文献

[1] 阿部恒. (2012). すごいぞ折り紙入門編: 折り紙の発想で幾何を楽しむ. 日本評論社.

[2] Bogomolny, A. (2018). Cut The Knot, Tangent of 22.5° – Proof Without Words.
https://www.cut-the-knot.org/pythagoras/Tangent225.shtml

[3] Toth, G. (2021). Elements of Mathematics: A Problem-Centered Approach to History and Foundations. Springer International Publishing.

[4] Jackson, P. (2013). Cut & Fold Techniques for Promotional Materials. Laurence King Publishing.

作成: 藤原大樹
更新: 2024年2月22日