月別アーカイブ: 2015年10月

伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第10章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第10章演習問題答案例です。

第10章 組織構造
(演習問題)

1.
 それが可能であるならば、前者の三つの課に分ける案のほうがよい。そのほうが課長の数が少なくて済むのでその分生産に人員を割くことができ、また課と課の間の調整も容易だからである。しかし無理にそのような分け方をして混乱を生じるようであれば、10の課を作るほうがよい。つまり、きちんと管理できるのであれば前者が望ましいが、無理であれば後者にするほうがよい。

2.
 カンパニー制とは、企業内の事業部を、独立した会社であるかのように扱う制度のことである。特に、独立採算制にして広範な権限を各社内カンパニーに与えるのがその特徴である。事業単位で組織をマネジメントするという点では事業部制と本質的に異ならず程度が異なるだけだと言えるが、予算の裏付けのある決定権限を移譲するという点では、別法人を作る分社化に近く、事業部制とは本質的に異なるとも言える。

3.
 「組織構造は戦略に従う」というのは、戦略のほうが企業にとって本質的に重要であり、例えば業績が悪化したからといって組織構造をいじったとしても、それだけで自動的に戦略が最適化されて業績が回復するわけではないということである。他方で「戦略は構造に従う」というのは、与えられた構造に応じて自ずと戦略が絞られるという意味ではないかと推測する。両方の言葉がともに正しいとすれば、企業の根本となる広義の戦略が組織構造を規定し、その組織構造が狭義の戦略を規定するという意味で正しいのではないかと考えられる。

伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第9章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第9章演習問題答案例です。

第9章 組織と個人、経営の働きかけ
(演習問題)

1.
 キヤノンのセル生産方式を例にとる。これはライン生産方式とは異なり、一人が同じ空間内で全工程を担当するというもので、トヨタのカイゼンをさらに発展させてものである。このように全工程を担当すると生産全体を把握するという思考様式の下でたくさんの情報が手に入り、問題点や改善点が見えやすくなって、学習が促進される。

2.
 戦略はこの3つの中で一番大きな要素であり、うまく共有できると従業員の心理的エネルギーを高め、多方面で長期間にわたり業務行動と学習を促進させられるという長所がある。他方で戦略というのは概して曖昧であり、きちんと共有するのが難しいという短所がある。
 経営システムを調節することにより微妙な調整を行うことができるという長所があるが、従業員の心理的エネルギーを高めることは少なく、場合によってはマイナスの影響を与えてしまうという短所がある。
 これとは反対に、理念と人を通じた統御は人間臭さをもっていて爆発的な効果を発揮することもあるが、誰にでもできるわけではなく微妙な調整も難しいという短所がある。

3.
 個人の自律性と現場の自己組織性を前提とすると、それらをつぶしたり発生しにくくさせたりして組織が抑圧の存在になる状況が考えられる。例えば現場に決定権限を全く与えない状況では、個人の自律性も現場の自己組織性もつぶされてしまうと言える。また、オフィスに間仕切りを設置するなどしてコミュニケーションを阻害し、短期的に従業員を入れ替え、従業員がお互いに悪口を言い合うような状況であれば、個人の自律性や現場の自己組織性が発生しにくい。

京アカ会員出演イベントのお知らせ

 
京都アカデメイア会員の上野大樹さんが参加のシンポジウムのお知らせです。

「公共哲学から公共性の思想史へ」第2回/第15回一橋哲学フォーラム

http://jshet.net/modules/schedule/index.php?smode=Daily&action=View&event_id=0000000399&caldate=2015-10-18

主題:公共性と共和政のフランス思想史

日時:11月1日(日)午後1時30分-5時30分
場所:一橋大学国立キャンパス第三研究館・共用会議室

報告者:
・上野大樹(日本学術振興会/一橋大学)
「ポリス的/公共的エコノミーとはなにか:ルソーとスミスのポリス統治術論の比較から」
・安藤裕介(日本学術振興会/東京大学)
「フィジオクラットにおける知・権力・公共性:「合法的専制」から「社会技術」の概念まで」
・隠岐さや香(広島大学)
「コンドルセの社会数学と科学の「公共的使用」」

コメンテータ:
・森村敏己(一橋大学)
・稲永祐介(フランス国立科学研究所/GSRL)

イベントの詳細は主催者ウェブページをご覧ください。
http://jshet.net/modules/schedule/index.php?smode=Daily&action=View&event_id=0000000399&caldate=2015-10-18
 

伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第8章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第8章演習問題答案例です。

第8章 雇用構造のマネジメント
(演習問題)

1.
 スキルベースの考え方に偏ってスキルを基準にして従業員を頻繁に入れ替えると、目に見えやすいスキル以外の要素を捨象してしまい、その企業で働くことを通じて培った独自のノウハウなどが蓄積されず、競争力が低下するという経営上のマイナスがある。容易に解雇されるとなると、社会的に失業手当の給付や職業訓練を行う必要性も高くなり、そのためのコストを要するというマイナスがある。
 ヒトトータルのベースの考え方に偏ると、スキルが陳腐化するなどして従業員が生産に貢献しないとしても雇用を維持しなければならず、高コスト体質になりがちだという経営上のマイナスがある。従業員としても、一度入社すれば自分に合っていないと思ってもその会社にとどまらなければならないという圧力を強く感じがちであり、他方で何らかの事情で長期雇用から離脱した人はスキル面で有能であっても再就職が困難になるので、人材をうまく活用できていないという社会全体のマイナスがある。

2.
 私が勤めている会社は、非常勤が主流であり、賃金額は完全に一律である。年功序列・終身雇用を前提とした生活給を保障するような賃金制度ではない。能力給や歩合給でもない。その賃金支払いの原則は、顧客から集めた対価から一定の経費を差し引いて、残りを分配することを基本としつつ、顧客の数の増減による変動をなくすために平均にならしたものであると考えられる。

3.
 見えざる出資の考え方の背後には、賃金以外の、終身雇用という雇用慣行が見えざる出資を促進する働きをしていると思われる。年功賃金制度から成果主義制度に移行して賃金と生産性とが一致したとしても、終身雇用を期待できるというだけで見えざる出資はゼロにならないと言える。終身雇用の下では若くて生産性の高い従業員が少しでも高い賃金を求めて移動するということがあまり行われないので、企業にとっては、従業員が若いうちからずっと自社で働いてくれることで学習をして生産性が高まることを期待できる。ある年齢を過ぎて生産性が低下した後は、企業がその人をもっと生産性の高い人材で置き換えるということをせずに雇い続けることになるので、賃金が低下しても雇用が維持されるという点で従業員は見返りを得ていると言える。

伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第7章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第7章演習問題答案例です。

第7章 資本構造のマネジメント
(演習問題)

1.
旧ソ連や中国などの共産主義体制の国々で、市場経済へと移行する際に、株式会社制度の整備がとくに重要となるのは、株式会社制度が市場経済を基礎とした資本主義体制の根幹に関わるからである。株式会社では株式数に応じて議決権が付与されるので、私的所有に基づく決定が行われるという点が決定的である。そのおかげで柔軟かつ活発な企業活動が期待できる。

2.
銀行からの負債など、他人資本を借り入れると、利子を負担しなければならない。損金算入して税制上優遇されるといっても、負担であることには変わりない。また、多額の借り入れをすると、銀行などの貸主から経営を指図される恐れもでてくる。自己資本にはこれらのデメリットがないので、無借金経営が企業の優良度の指標であるという常識があるのである。

3.
1017出典:JPX「2014年度株式分布状況調査の調査結果について」p.5
http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/nlsgeu0000010nfj-att/bunpu2014.pdf

第二次世界大戦後の持株会社・財閥の解体により、個人株主の比重が高まった。その後、1964年の日本の OECD 加盟などを経て、資本の自由化が進んだことに伴い、外国人株主の比重が増加してきた。特にこの30年間ほどでは、インターネットの普及などのグローバル化が進展したことがこの外国人株主比率の増加という動きを後押ししたと考えられる。事業法人等は、外国人株主に経営を乗っ取られることを防ぐためなどの理由で、1990年代までは株式の持ち合いを積極的に行っていたが、2000年頃から会計で株式の時価評価をすることを求められるようになり、本業に集中すべく保有株式を放出する傾向になった結果、株主構成に占める比率が低下した。この理由に加えて、都銀・地銀等は、バブル崩壊から2000年前後にかけての再編に伴い保有株式を整理したので、比率を大きく低下させることとなった。そのうちの一部は信託銀行等が保有するようになったと見込まれる。

京都アカデメイア読書会第4回(特別篇)のお知らせ

百木です。10月の読書会のお知らせです。
10月の京都アカデメイア読書会は特別篇として京都大学人文科学研究所の藤原辰史先生をゲストにお招きして、藤原先生著『食べること 考えること』(共和国、2014年)の読書会を行います。
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藤原先生は、「食べること」の歴史研究(農業史)とナチスの歴史研究をご専門とされています。主なご著書に『ナチスのキッチン』(水声社、2012年、第1回河合隼雄学芸賞受賞)、『ナチス・ドイツの有機農業 「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』(柏書房、2005年)、『カブラの冬 第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』(人文書院、2011年)などがあります。

参考:藤原辰史さんインタビュー(みんなのミシマガジン)

『食べること 考えること』は、藤原先生がいろんな媒体に書かれた「食べること」に関する文章をまとめられたもので、エッセイ集のように軽やかに読ませつつ、私たちの食生活や社会のあり方や歴史の成り立ちについて深く考えさせてくれる一冊になっています。今回の読書会では、この本の感想を語り合いながら、現代における「食」のあり方、「生活」のあり方、そして現在の社会や政治の問題についてもディスカッションできればと考えています。

また藤原先生は、この夏に有志の京大研究者の方々とともに「自由と平和のための京大有志の会」を立ちあげられました。「戦争は、防衛を名目に始まる」という一文から始まる声明書は、全国的に大きな話題を呼び、大手新聞などにも取り上げられました。今回の読書会は、この「自由と平和のための京大有志の会」との共催イベントとなっています。イベントでは、『食べること 考えること』の感想や「食」の話題から入って、少しずつ現在の日本をめぐる政治や社会の状況についてもオープンに議論する場にしていくつもりです。

ご関心ある方はどなたでもお気軽にご参加ください。(事前申込不要) ※当日、少し遅めの開催になりますが、会場入口は19時半~20時半まで開いている予定です。その間の時間帯にお越しください。

<第4回京都アカデメイア読書会 特別篇>
ゲスト :  藤原辰史准教授(京都大学人文科学研究所)
共催  :  自由と平和のための京大有志の会
課題本 : 『食べること 考えること』 (共和国、2014年)
日時 : 10月28日(水)20時~22時
場所 : 京都大学人文科学研究所1F第一セミナー室 

食べること

 

京都アカデメイア塾「時事ニュースと歴史」(中島啓勝)#3

直前の告知になってしまいましたが、明日10月12日(月・祝)の13時から京都アカデメイア塾「時事ニュースと歴史」(中島啓勝)#3のニコ生放送を行います。放送ページリンクは以下です。

 

http://live.nicovideo.jp/watch/lv237401571

電話番号変更のお知らせ

この度、NPO法人京都アカデメイアは所在地を移転させることに伴い電話番号を変更しました。新しい番号は075-777-5671です。

 

英語や社会学などを用意している京都アカデメイア塾の受講問い合わせなどはこの新しい電話番号かお問い合わせフォームからよろしくお願いいたします。