西尾維新『化物語(上)』書評

浅野直樹

今さらですが西尾維新さんの『化物語』を読む機会があり、この本には現代を生きる上で大事なテーマが隠されていると感じたので、書評を書きます。


化物語

講談社(2006年11月24日)

本書に隠されている重要なテーマとは、「コミュニケーションの難しさを前提として、それでもコミュニケーションに挑戦する」ことです。あとがきからそのテーマが見えてきます。

人間思っていることを百パーセント表現できるわけがないし、また表現されたものが百パーセント伝わるわけもなく、実際は上首尾に運んで六十パーセントずつ、つまり作者の思っていることで作品を通して受け手に伝わることは三十六パーセントというのが実際的な数字です。残り六十四パーセントは勘違いで、ゆえに作者自身による解説を読むと受け手として半分以上同意できないことが多々あります。え、そんなつもりで書いてたの? とか。いわゆるコミュニケーションの難しさですが、しかしその勘違いこそがいいスパイスになることは揺るぎのない事実です。(p.444)

本編もこのテーマで貫かれているのではないかと思います。ひたぎクラブの蟹に対して忍野メメは「言葉が通じないなら戦争しかない」(p.89)という態度で臨みますし、まよいマイマイの八九寺真宵との関係で羽川翼は「話せばわかる」(p.178)という姿勢の大事さを説き、するがモンキーのレイニー・デヴィルは表と裏がありつつも契約の文言に縛られていると言えます。

 

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