古市憲寿『古市くん、社会学を学び直しなさい!!』

大窪善人




(1970年01月01日)

 
いまだかつて、これほど社会学についてざっくばらんに語った本があっただろうか。

この本は『絶望の国の幸福な若者たち』以来、メディアで広く活躍し、また話題にこと欠かない「社会学者」古市憲寿氏がナビゲーターとなり、12人の著名な社会学者に対し正面から疑問をぶつけていきます。


「社会学って何ですか?」

「社会学って何ですか?」対談はまずこの問いかけからはじまります。

みなさんはどんな印象を受けるでしょうか? 「えっ、社会学者なのにそんな基本的なことも知らないの?」あるいは「読者のためにあえて聞いてるのかな?」とか思われるでしょうか。

ところで、先に古市さんの肩書を「社会学者」とカッコ書きにしたのには理由があります。それは古市さん自身が「社会学(者)」に対して少し距離を置いている、あるいは違和感を持っているからです。

普通、人は自分がものを知らないということを恥ずかしいことだと感じます。だから、わからないことを人にたずねるのは勇気のいることです(たとえば都道府県の名前かといまさら人に聞けませんよね?)。ましてそれが「身内」ならなおさらでしょう。

しかし、そんなことなどお構いなし、さながらタロットの「愚者」のように、一見素朴とも思えるような問いを放っていきます。おそらく聞き手が古市さんでなければ、ここまで開けっ広げな内容の本にはならなかったのではないでしょうか。しかし、じつはそれが社会学を深く理解する鍵になっているのです。

対話の内容を少しだけ紹介しましょう。

佐藤俊樹  社会学という学問はダイアローグでしか学べない部分があります。[…]社会学的な思考は、「あなたのその問いは、こういうことを前提として考えていますね」という形で対話しながら、答えをゆるやかに探り出していく。[…]そういう社会学の思考を身につけるためには、対話的な訓練を重ねる必要があります。

なんとなく、ソクラテスの対話とか宗教的な問答を思い出します。

古市  最近、面白いと思った社会学の研究はありますか。
宮台真司  ないです(笑)。政治学のほうがずっと面白い。
[…]
宮台  社会学ほど、僕たちに知恵を与えてくれないものはないから。
古市  社会学は知恵を与えてくれない?
宮台  社会学から出てくる知恵をほとんどは、敏感な人間ならとうに知っていることばかりでしょ。面倒くさい調査によって、実証なんかしてもらうまでもないんですよ(笑)。
古市  たしかに……。

社会学ってあくまでも道具とか方法なんですよね。アイデアのない人が社会学を勉強したからといって何か新しいことがわかるわけではないと。

上野千鶴子  「社会学者はシャーマンである」というのが私の説です。
古市  シャーマン?
上野  […]シャーマンとは、わけのわからない現実に説明を与える人、いわば社会の絵解き師です。シャーマンの絵解きには、正しい/正しくないという真偽判定はない。[…]「うまいシャーマン」と「へたなシャーマン」がいるだけです。
古市  どうして「正しいシャーマン」はいないんですか。
上野  経験的な現実に与える説明というものは、現実近似であっても、じつは検証不可能だからです。じゃあ、その説明判定の基準は何かというと、「理解可能性(intelligibility)」とか「もっともらしさ(plausibillity)」ということになる。

古市  他の学問も、研究の成果を社会に還元する必要性はありますよね。社会学が社会に知識を投げ返す場合、その方法は他の学問と比べて何か違いはありますか。
鈴木謙介  […]もともと社会学って、いまで言う新領域のような、あやふやな学問なんです。[…]一方では、大学に社会学の講座を持ったり、学会誌を発行したりして、社会学としての独自のディシプリンや科学としての自立性をアピールしていく流れがある。[…]
ところが他方では、そうやって学問として内向きに閉鎖してしまって、内部だけでわかるボキャブラリーでしか研究しなくなっていくことに対して自己批判をし続けていくという流れもある。[…]自己批判するような流れがなぜ生まれるかというと、社会学には近代化という大きな社会変動のメカニズムや、それが人々に与える影響を明らかにするんだという動機があったからです。[…]
古市  最初から社会とのつながっているから、内にこもることに批判的になるわけですね。

古市  社会学に向いている人って、どんな人でしょうか。
本田由紀  社会との距離感を感じている人は、馴染みやすいと思います。社会学の巨人たちを見ても、社会にどっぷり浸かれないような人が、社会学という学問をつくり上げるうえで大きな功績を果たしてきました。「社会ってなんだろう?」とか「なぜ自分は違和感を感じるんだろう?」と、社会や自分を観察する視線を日常に持っていることは、社会学をやっていくうえで不可欠の資質です。

さいごに、終章で開沼博さんが逆に「古市さんにとって、社会学って何ですか?」と尋ねています。それに対する古市さんの答えは、ぜひみなさんで確かめてみてください。

私自身、大学で社会学を勉強して印象深かったのは、「これは社会学的だ」とか「こんなのは社会学じゃない」とかいった態度ほど、社会学から遠いものはないということでした。そうしたくだらない線引にこだわるのではなく、むしろ前例にとらわれない新規な方法論とか、他分野の成果を旺盛に吸収することこそ社会学の十八番でしょう。

社会学を学びはじめる人にも、ぜひおすすめしたい一冊です。

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