人環フォーラム・学生講演企画(3)

(承前)3人目の講演者は、造形大D2の内田光枝さん。京大の外から見た人環のイメージについて語ってもらいました。他大学の方に無茶なお願いかとも思っていましたが、見事に期待に応えていただき、大学院(人環)に関してポジティブなイメージを語っていただくことができました。

自分はどちらかといえば、研究者を目指すとか就職するとかいう明確な目的なしにふらふらと大学院に進んでしまったタイプ。いちど就職して待遇も悪くなかったのだが、このままでは死に切れないと思い、やはり大学院に戻ってきた。そのときに浅田彰さんから「社会の役に立つ研究をしてね」という言葉をもらい*1、少なくとも研究について大きな指針をもつことができた。
具体的には神社についてのフィールドワーク調査をするなかで、地方の限界集落などで美しい神社がどんどん消えてなくなっていっているという現状に危機を覚え、自分でも何かしたいなと真剣に考えるようになった。そのために何ができるのかはいろいろと考え中。
昨年、人環フォーラムに来て、熱心に質問をしている学部生にびっくりして影響を受けた。今回の場のように、学生が集まってディスカッションをする場というのは非常に貴重だと思う。一流の学者の間でも、専門分野を超えて合意を見出すというのはとても難しいこと。ましてや学生の立場でそれが難しいのは当たり前だが、このように議論する場をもっていること自体がひとつの希望だと思う。
また、他大学から見て京大のネームバリューや資金面での待遇はとても羨ましいもの。その有利な面をよく意識しておいてほしい。人環フォーラムや京都アカデメイアの活動に関しては、趣旨説明や会場の場所などもっと分かりやすくする工夫がほしい。人環院生の研究内容など聞ける場があるとよいかも。

ひとくちに造形大の院生といっても、芸術作品を創っている人もいれば、内田さんのように神社に関するフィールドワーク調査などやっておられる方もいらっしゃるのだなぁと実感。学長大学院長の浅田彰さんから「社会の役に立つ研究をしてね」という言葉をもらい、研究について大きな指針をもつことができた、という内田さんの言葉について、中森くんの質疑応答の際に話題にもなっていた「社会の役に立つ研究」というものが具体的にどういうものを指すのか、少し考えこんでしまいました。

会場からの質問

質問1)大学院で他分野の人(研究室)と交流する機会はどれくらいありますか?

→昨年の人環フォーラムでは研究室のパネル紹介にひとりで飛び込み、その場でいろいろと紹介をしてもらった(そのときに学生講演会のことも知った)。造形大では他分野の人との交流はなかなかないのが現状。

質問2)造形大で製作系の学生と論文系の学生が交流する機会はありますか?

→正直なかなかありません。自分なりにそういう機会や場を作ろうと試みているが、なかなか難しい。

この後は、講演者3名と会場全体を含めた質疑応答とディスカッションの場となり、積極的な意見や提案を参加者の方々から出していただきました。少人数ながら、ディスカッションの内容としてはなかなか濃密なものになったのではないか感じました。提案して頂いたアイデアやアドバイスなどは、今後の京都アカデメイアの活動に生かしていきたいと思います。素敵な講演をしてくださった中森くん、嶋田くん、内田さん、素晴らしい司会ぶりだった浅野さん、参加してくださった来場者の皆さん、どうもありがとうございました。

*1:この点について大学院長の浅田彰先生ご本人からコメントを頂きました。誤解をまねくような表現をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。詳しくはコメント欄をご覧ください。(百木)

人環フォーラム・学生講演企画(3)」への4件のフィードバック

  1. 浅田彰

    通りがかりの浅田彰です。(1)私は京都造形芸術大学の「大学院長」で、「学長」は千住博です。(2)「社会の役に立つ研究をしてね」と言ったことはないはずです(そのように誤解される言い方をしたとすればこちらにも責任があるのでしょうし、誤解なさった学生さんを非難するつもりはまったくありませんが)。私はむしろ、研究や創作の「社会的有用性」をやたらに強調する近年の傾向(左右を問わず結局はグローバル資本主義下のプラグマティズムに支配された)に批判的で、研究でも創作でもまずはそれ自体のためになされるべきものだ(事後的に役に立つとすればそれはそれで結構なことだが)と言ってきたつもりだし、ここでもあらためてそう繰り返しておきます。

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  2. 百木漠

    浅田彰先生、わざわざコメントをありがとうございました。そして肩書きを間違えて掲載してしまい、大変申し訳ありませんでした。文面を修正させて頂きました。「社会の役に立つ研究」発言についても内田さん自身はおそらく浅田先生が仰るような意味合いで語っておられたのだと思うのですが、私の書き方が悪く、誤解をまねくような表現になってしまったことをお詫びします。浅田先生が仰られている研究や創作への態度は個人的にも非常に共感するところですので、ここで改めて訂正させて頂きます。申し訳ありませんでした。

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  3. 内田光枝

    造形大の内田です。浅田先生直々に書き込み有難うございます。大学では中々お話できませんが、このような回線を使って話せる世の中に感謝しています。
    また、この書き込みを見ていて下さったら嬉しく思います。
    社会とは何か、私とは何か、研究とは何か、まだまだ考えがまとまらない今日この頃ですが、今度一度先生とお話できたら嬉しいと考えています。
    こういった議論なりをもっと色々な人たちとしていかなければならないと考えています。

    返信
  4. 内田光枝

    造形大の内田です。浅田先生直々に書き込み有難うございます。大学では中々お話できませんが、このような回線を使って話せる世の中に感謝しています。
    また、この書き込みを見ていて下さったら嬉しく思います。
    社会とは何か、私とは何か、研究とは何か、まだまだ考えがまとまらない今日この頃ですが、今度一度先生とお話できたら嬉しいと考えています。
    こういった議論なりをもっと色々な人たちとしていかなければならないと考えています。

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