- 作者: 湯浅誠
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/08/21
- メディア: 単行本
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百木です。先日の批評鍋(ust放送してる読書会のようなもの)で読みました。当日は、参加型民主主義の可能性やリーダーシップ型民主主義の是非などで議論が盛り上がりましたが(個人的にはIくんの言っていた「フォロワーシップ」という言葉が面白いなと思いました)、批評鍋の時間中にコメントできなかったことをここで書いておきます。僕がこの本を読んでいて個人的に面白いと思ったのは、第3章「私たちができること、やるべきこと」の中で紹介されていた具体事例でした。例えば以下のようなものです。
被災地の仮設住宅などでは、たいていの場合、中年女性はすぐに近隣の人と人間関係を築き、情報交換や必要な物の交換などをするようになるけど、中年男性はそういう人間関係を築くのが苦手で、仮設住宅に引きこもってしまうよう人が多いそうです。中年男性は会社などの職場ではうまく人間関係を築けていても、一歩その外に出ると社交ベタな人が多いと。その結果、いま被災地周辺ではパチンコ屋がたくさんできていて、行き場のない中年男性がそこに集まってしまうそうです。悲しい話ですが、いざ自分もそういう立場に置かれたら同じ状況に陥らないとは言い切れません。
そこでさらに紹介されている事例が興味深くて、そういうおじさんたちに「見守り部長」とか「出納担当課長」とかの名刺を配って仕事をお願いすると、彼らは急に張り切り出すそうです。肩書きのついた名刺をもらった途端に、「しかたないな、俺がやらねば」とか言い出して、急に周辺の仮設住宅に挨拶まわりを始めたり、リーダーシップをとって仕切りだしたりする。「複雑な気持ちになりますが…」と湯浅さんは書いていたが、なるほど上手いやり方があるものだな、と思いました。
おじさんたちのプライドを傷つけないように、できるだけうまくおだててあげながら、良い仕事をして良い人間関係を築いてもらうことが大切なのですね。なぜなら中年男性にとっては「周囲から認められる仕事を与えられている・している」という認識が社会関係を形成するうえで、非常に重要なファクターなっているから(少なくともいまの日本では)。その点、女性のほうがそういう非常事態には臨機応変で人間関係を築くのが上手だということなのかもしれません。(もちろんケース・バイ・ケースでいろんな人がいるとは思いますが。)
あと、「足湯」ボランティアの試みも興味深かったです。今回の震災でも行われた「足湯」ボランティアは、単に足を温めることだけが目的ではないそうです。ボランティアの人がいきなり被災地を訪ねていって「大丈夫ですか」と聞いてまわっても、被災地の人たちからは「大丈夫です」という答えしか返ってこない。その結果、なかなかうまく被災者のニーズを汲み取ることができない。そこで編み出され普及したのが足湯だそうです。
椅子を並べて希望者に座ってもらう。椅子の前にたらいを置き、お湯をはっておく。ボランティアの人がたらいの先にしゃがみ、足をさすってあげたり、終わったときに足を拭いてあげたりする。その状況が15分間くらい続きます。ボランティアの目線は足湯をしている人の目線よりも下の位置にある。「熱すぎませんか」「温まってきましたか」などと聞かれるうちに「最近どうですか」という話になる。そうすると気持ちがリラックスする状況もあり、そこから逃げ出すわけにもいかないというわけで、うまく被災者の方々の本音を聞き取ることができるそうです。これもなかなかよく考えられた仕組みですね。
他にもこういった事例がいくつか紹介されていて、本論からはややずれる話なのですが、そういった事例紹介が個人的には一番面白かったです。