いつから人は花を愛でるようになったのでしょう。
なぜ人はこれほど花の美しさに惹かれるのでしょうか?
本書は花と植物のフォト・エッセイ。
ですが中見がちょっと変わっています。
キーワードは「官能」。
たとえば、ウツボカズラの名で有名な食虫植物ネペンテス。
虫を捕まえるための独特のフォルムは奇妙に魅惑的です。
著者はその秘密を両性具有として描きます。
捕虫袋は、赤黒のまだら模様で装飾され、中央が少しくびれて細長く、男性器のようでもあり、同時に女体の曲線を思わせる。虫を誘う捕虫器の入口の縁の部分には、さながら女性器の陰唇に似た赤黒い襞が密集し[…]襞は粘液のある蜜で光り、ここに蝿や蟻などの虫が這い回るのだ。まだ蓋の開いていない未成熟の袋の形は、屹立した男性器に酷似し、袋の縦翼に毛が生えている
かつて植物がこれほど性的に語られたことがあったでしょうか。
さらに、コバチを利用するイチジクの知られざる生態。
コバチは、両性花の果実の先端に開いた穴から中に潜り込み、虫えい花の胚珠に卵を産みつける。果実(花嚢)の中で孵化したコバチの幼虫は、胚珠を餌にして育ち、果実の中で交尾する。交尾後、羽がない雄は生涯を果実の中で過ごし、雌は果実の出口周辺に咲く雄花の花粉を受け取り、外へ飛び立ち、産卵に向かう。[…]産卵された両性株の果実の中ではまた孵化と交尾が繰り返され、イチジクの受粉を果たし、その営みは幾度となく繰り返される。[…]野生種のイチジクは、イチジクコバチの交尾によって実を結ぶ。
共生と呼ぶにはあまりに生々しい罠、狡知、お互いがお互いを犯し犯される関係、そして、死…。
その他にも”「内蔵」から分泌される粘液”(ドロセラ)や “快楽の扉”(クリトリア)、完全なる生命”ファリック・ガール”(アンスリウム)…。
静的で弱々しいイメージとは異なる、35種類の植物がもつ獣性と魔性、そして、支配、食物連鎖への叛逆が、さまざまな哲学や神話的イマジネーションとの共鳴を伴いながら明かされます。
官能は生の根源であり、世界の真実の姿を開示する、と著者は言います。
恍惚すなわちエクスタシーの語義は”Ex”=外部に”histemi”=立つ。
均整のとれた美の裂け目、心地よさ快さよりさらに内奥に、「いま ここ」ならざる「ここではないどこか」へと突き抜ける、驚くべき快楽がきっとあるに違いありません。
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