西尾維新『傾物語』書評

浅野直樹

西尾維新『傾物語』の書評です。


傾物語

講談社(2011年02月10日)

前作の『猫物語(白)』は語り部が羽川翼で純文学テイストだとしたら、本作の『傾物語』は語り部が阿良々木暦に戻り、いつものライトノベル風の作品になっています。

 

ライトノベルによくある、キミ(ヒロイン)とボク(主人公)との関係性が世界の破滅に直結するセカイ系の作品だと言えます。p.260ではセカイ系を意識してか、世界を救うか女の子を救うかという問いが立てられ、p.314では「世界も救って、女の子も救う。そんな強欲さこそが今時のヒーロー像だろ」という答えが出されます。

 

これだけ聞くと都合がよすぎるように思われるかもしれませんが、本作ではパラレルワールドにタイムスリップするというSF小説的な仕掛けも施されており、一定の説得力が持たされています。

 

パラレルワールドにタイムスリップするということに関しては、p.294以下の忍野メメの手紙に詳しく記述されています。世界が一つだけで過去にタイムスリップをすると矛盾(タイムパラドックス)が生じかねないのですが、世界が複数あるなら別世界の過去に行くことで、あたかもこの世界の過去を変えたかの様相を呈します。本作のタイムスリップは後者です。

 

世界が複数あるのであれば、女の子も世界も救われる世界があってもよいということになります。ただし、この世界の過去を変えることはできず、この世界で積み重ねてきたことには縛られます。このあたりのさじ加減が絶妙だと感じました。

 

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