西尾維新『憑物語』の書評です。
前作『恋物語』の主張が考え抜けということだとすれば、今作『憑物語』の主張は考えても先々のことは見通しきれないのだから行動しろということだと解釈しました。
pp.17-26で展開される目覚まし時計についてのくだりもそのことを表しています。目覚まし時計についてあれこれ考えるよりも起きろと。
斧乃木余接をクレーンゲームで取るときも、デパートの閉店時間に迫られて、考える間もなくゲームをプレイさせられています。説明書を読んでじっくり考えるのではなく、プレイしながら少しずつ理解していくというやり方です。
手折正弦と対峙する際も、やっこさんが賽銭箱からあふれるまでというタイムリミットが設定され、考えるよりも先に行動することが求められます。
目の前の状況に促されて深い考えなしに行動した結果吸血鬼に慣れすぎてしまったということが本作の背景にありながら、それでも考える暇を与えられずに行動を迫られるという構造になっているわけです。