来月11月の投票を前にいよいよ佳境を迎えたアメリカ大統領選挙。
今回は何かと注目を集めてきましたがどんな結果になるのでしょうか。一方、日本でも近々選挙が行われるという噂もあるようです。
この機会に、意外と知られていない政治の基本知識について知っておくとお得です。
二つの映画から
ご存知の通り、アメリカは「大統領制」という方式を採っています。一方、日本の政治制度は「議院内閣制」と呼ばれます。中学高校の公民で習ったかもしれませんが、いまいち違いがよくわからないという人も多いのでは? なので、今回は二本の映画をヒントに考えてみます。
一本目は、今年大ヒットの庵野秀明監督「シンゴジラ」です。ポリティカル・フィクションとしても高い完成度です。
再度上陸を果たしたゴジラは、自衛隊の総攻撃を退け都心一帯を火の海にします。混乱の中、大河内総理らを乗せたヘリが墜落、行方不明に。総理不在を受け内閣総理大臣臨時代理には里見農林水産大臣が指名されます。
実はこの設定はリアルで、内閣法では「予め指定した国務大臣が臨時代理になる」ことを定めています。
さて、比較対象はエメリッヒ監督「ホワイトハウス・ダウン」(2013)。
ホワイトハウスが白昼テロリストに襲撃され、たまたま居合わせたシークレットサービス志望の男(ジョン・ケイル)が大統領(ジェームズ・ソイヤー)を護りながら奮闘するというストーリー。
テロリストの襲撃で大統領が行方不明になり、代わってハモンド副大統領が臨時大統領に就任。ところが彼の搭乗するエアフォース・ワンがテロリストのミサイルによって撃墜。大統領権限はラフェルソン下院議長へ移ります。こちらの描写も実際の継承順位にのっとったものです。
大統領と首相、強いのはどっち?
「ホワイトハウス・ダウン」の方は説明が必要でしょう。なぜ下院議長に大統領継承権があるのか。日本で言えば下院議長は衆議院議長に当たります。衆議院議長が首相代理を務めることは、ありえません。また、アメリカの大統領継承順位で、各閣僚(各省の長官)は上・下院議長よりも下位に置かれています。
なぜ日米で政治指導者の継承順位が違うのでしょうか?
その理由は、政治制度の違いにあります。現代の民主的な政治制度は、大きく分けると「大統領制」と「議院内閣制」の二つです。大統領制では国民は大統領と議会の両方を選挙で選びます。これに対して、議院内閣制では選挙で選ばれるのは議会だけです。だから、内閣総理大臣は国会の信任によって成り立つわけです。
大統領制では大統領と議会がそれぞれに民主的正統性を持つのに対して、議院内閣制では「国民→国会→内閣」というふうに正統性のラインは一本なのです。
よくテレビのニュース解説なんかで「日本の首相よりアメリカ大統領の方が強い権限を持っている」と言われることがありますが、完全に誤りです。
アメリカの政治制度は厳格な三権分立です。大統領にあるのは行政権だけで、法案提出すらできません。他方、日本で可決される法律のほとんどは内閣提出法案です。つまり、議院内閣制では、立法と行政との制度的区別は比較的緩やかなのです。
だから、常識に反して、ほんらい日本の首相の方がアメリカの大統領よりもはるかに強い権限を与えられているというわけです。
思い切った大胆な改革は、内閣に強いリーダーシップを与えている議院内閣制の方がやりやすいと言えるでしょう。上手く行かなければ「政権交代」で政策をスイングバックすればよいわけです。
私たちはどんなゲームをプレイしているのか?
と、物知り顔で解説してきましたが、じつはここで披露した知識のほとんどは私が大学1回生のときに授業で勉強した内容(いわゆる一般教養)です。
だけど知識だけ増えても大したことはありません。重要なことは、私たちが一体どんな政治というゲームをプレイしているのかを知っておくということ、これです。
野球の試合をサッカーのルールでやっていたのではゲームにならないように、正しいルールを知ってはじめて成り立つのは政治も同じです。
一見複雑でわかりにくい政治も、基本的なルールを知っているだけでかなり見通しがよくなりますよ。
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