伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第8章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第8章演習問題答案例です。

第8章 雇用構造のマネジメント
(演習問題)

1.
 スキルベースの考え方に偏ってスキルを基準にして従業員を頻繁に入れ替えると、目に見えやすいスキル以外の要素を捨象してしまい、その企業で働くことを通じて培った独自のノウハウなどが蓄積されず、競争力が低下するという経営上のマイナスがある。容易に解雇されるとなると、社会的に失業手当の給付や職業訓練を行う必要性も高くなり、そのためのコストを要するというマイナスがある。
 ヒトトータルのベースの考え方に偏ると、スキルが陳腐化するなどして従業員が生産に貢献しないとしても雇用を維持しなければならず、高コスト体質になりがちだという経営上のマイナスがある。従業員としても、一度入社すれば自分に合っていないと思ってもその会社にとどまらなければならないという圧力を強く感じがちであり、他方で何らかの事情で長期雇用から離脱した人はスキル面で有能であっても再就職が困難になるので、人材をうまく活用できていないという社会全体のマイナスがある。

2.
 私が勤めている会社は、非常勤が主流であり、賃金額は完全に一律である。年功序列・終身雇用を前提とした生活給を保障するような賃金制度ではない。能力給や歩合給でもない。その賃金支払いの原則は、顧客から集めた対価から一定の経費を差し引いて、残りを分配することを基本としつつ、顧客の数の増減による変動をなくすために平均にならしたものであると考えられる。

3.
 見えざる出資の考え方の背後には、賃金以外の、終身雇用という雇用慣行が見えざる出資を促進する働きをしていると思われる。年功賃金制度から成果主義制度に移行して賃金と生産性とが一致したとしても、終身雇用を期待できるというだけで見えざる出資はゼロにならないと言える。終身雇用の下では若くて生産性の高い従業員が少しでも高い賃金を求めて移動するということがあまり行われないので、企業にとっては、従業員が若いうちからずっと自社で働いてくれることで学習をして生産性が高まることを期待できる。ある年齢を過ぎて生産性が低下した後は、企業がその人をもっと生産性の高い人材で置き換えるということをせずに雇い続けることになるので、賃金が低下しても雇用が維持されるという点で従業員は見返りを得ていると言える。

伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第7章演習問題答案例

京都アカデメイア塾「論文の読み書き」クラスのために作成した、伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』第7章演習問題答案例です。

第7章 資本構造のマネジメント
(演習問題)

1.
旧ソ連や中国などの共産主義体制の国々で、市場経済へと移行する際に、株式会社制度の整備がとくに重要となるのは、株式会社制度が市場経済を基礎とした資本主義体制の根幹に関わるからである。株式会社では株式数に応じて議決権が付与されるので、私的所有に基づく決定が行われるという点が決定的である。そのおかげで柔軟かつ活発な企業活動が期待できる。

2.
銀行からの負債など、他人資本を借り入れると、利子を負担しなければならない。損金算入して税制上優遇されるといっても、負担であることには変わりない。また、多額の借り入れをすると、銀行などの貸主から経営を指図される恐れもでてくる。自己資本にはこれらのデメリットがないので、無借金経営が企業の優良度の指標であるという常識があるのである。

3.
1017出典:JPX「2014年度株式分布状況調査の調査結果について」p.5
http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/nlsgeu0000010nfj-att/bunpu2014.pdf

第二次世界大戦後の持株会社・財閥の解体により、個人株主の比重が高まった。その後、1964年の日本の OECD 加盟などを経て、資本の自由化が進んだことに伴い、外国人株主の比重が増加してきた。特にこの30年間ほどでは、インターネットの普及などのグローバル化が進展したことがこの外国人株主比率の増加という動きを後押ししたと考えられる。事業法人等は、外国人株主に経営を乗っ取られることを防ぐためなどの理由で、1990年代までは株式の持ち合いを積極的に行っていたが、2000年頃から会計で株式の時価評価をすることを求められるようになり、本業に集中すべく保有株式を放出する傾向になった結果、株主構成に占める比率が低下した。この理由に加えて、都銀・地銀等は、バブル崩壊から2000年前後にかけての再編に伴い保有株式を整理したので、比率を大きく低下させることとなった。そのうちの一部は信託銀行等が保有するようになったと見込まれる。

京都アカデメイア読書会第4回(特別篇)のお知らせ

百木です。10月の読書会のお知らせです。
10月の京都アカデメイア読書会は特別篇として京都大学人文科学研究所の藤原辰史先生をゲストにお招きして、藤原先生著『食べること 考えること』(共和国、2014年)の読書会を行います。
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藤原先生は、「食べること」の歴史研究(農業史)とナチスの歴史研究をご専門とされています。主なご著書に『ナチスのキッチン』(水声社、2012年、第1回河合隼雄学芸賞受賞)、『ナチス・ドイツの有機農業 「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』(柏書房、2005年)、『カブラの冬 第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』(人文書院、2011年)などがあります。

参考:藤原辰史さんインタビュー(みんなのミシマガジン)

『食べること 考えること』は、藤原先生がいろんな媒体に書かれた「食べること」に関する文章をまとめられたもので、エッセイ集のように軽やかに読ませつつ、私たちの食生活や社会のあり方や歴史の成り立ちについて深く考えさせてくれる一冊になっています。今回の読書会では、この本の感想を語り合いながら、現代における「食」のあり方、「生活」のあり方、そして現在の社会や政治の問題についてもディスカッションできればと考えています。

また藤原先生は、この夏に有志の京大研究者の方々とともに「自由と平和のための京大有志の会」を立ちあげられました。「戦争は、防衛を名目に始まる」という一文から始まる声明書は、全国的に大きな話題を呼び、大手新聞などにも取り上げられました。今回の読書会は、この「自由と平和のための京大有志の会」との共催イベントとなっています。イベントでは、『食べること 考えること』の感想や「食」の話題から入って、少しずつ現在の日本をめぐる政治や社会の状況についてもオープンに議論する場にしていくつもりです。

ご関心ある方はどなたでもお気軽にご参加ください。(事前申込不要) ※当日、少し遅めの開催になりますが、会場入口は19時半~20時半まで開いている予定です。その間の時間帯にお越しください。

<第4回京都アカデメイア読書会 特別篇>
ゲスト :  藤原辰史准教授(京都大学人文科学研究所)
共催  :  自由と平和のための京大有志の会
課題本 : 『食べること 考えること』 (共和国、2014年)
日時 : 10月28日(水)20時~22時
場所 : 京都大学人文科学研究所1F第一セミナー室 

食べること

 

京都アカデメイア塾「時事ニュースと歴史」(中島啓勝)#3

直前の告知になってしまいましたが、明日10月12日(月・祝)の13時から京都アカデメイア塾「時事ニュースと歴史」(中島啓勝)#3のニコ生放送を行います。放送ページリンクは以下です。

 

http://live.nicovideo.jp/watch/lv237401571

電話番号変更のお知らせ

この度、NPO法人京都アカデメイアは所在地を移転させることに伴い電話番号を変更しました。新しい番号は075-777-5671です。

 

英語や社会学などを用意している京都アカデメイア塾の受講問い合わせなどはこの新しい電話番号かお問い合わせフォームからよろしくお願いいたします。

 

京アカ会員出演イベントのお知らせ

 
京都アカデメイア会員の舟木徹男さんが、「名古屋哲学フォーラム2015秋」に出演されます。

http://www.human.nagoya-u.ac.jp/lab/phil/forum/#s2

テーマ: 精神医学とは何かー医学、哲学、それとも宗教?

日時 : 2015年9月5日(土曜日)午後1時30分より
会場 : 南山大学名古屋キャンパスR棟R33教室

提題:
精神医学が哲学に期待すること
村井俊哉(精神医学、京都大学大学院医学研究科教授)

気分としての躁状態における暗黙の不安
谷内洋介(科学哲学、東京大学大学院総合文化研究科DC1)

精神分析学からみた宗教哲学―鈴木大拙における「もったいない」の概念について
舟木徹男(宗教学、NPO法人京都アカデメイア)

発表要旨:
現在では精神医学の対象である心の病苦の治療は、前近代においては————部分的には近代以降も————主として宗教によって引き受けられていた。したがって、宗教による治癒の内実を精神医学の立場から照射することは、宗教理解のためにも、また、精神医学における治癒概念の彫琢のためにも資するところがあると思われる。本発表では、近代日本の代表的な宗教思想家である鈴木大拙が宗教心理の本質を表すとした「もったいない」という語を、力動精神医学の代表的思想家であるフロイトの神経症理論によって読み解くことを試みたい。フロイトは、神経症の治癒を阻害する患者側の要因として、神経症を病んでいることで様々な恩恵を得る機制(疾病利得)と、神経症からの治癒という恩恵を無意識の罪悪感ゆえに退ける機制(陰性治療反応)の二つを挙げている。この両者が「もったいない」という語がもつ通常の二義、すなわち「惜しい」と「畏れ多い」に対応することを指摘したうえで、両者の循環的関係が解消されたところに可能になる神経症の治癒が、大拙の言うところの「もったいない」体験に対応する、という解釈を提示する。さらに大拙がこの語を「有り難い」と同義とし、また宗教体験を「下されもの」と表現していることを手掛かりに、神経症の治癒におけるアンビバレンスの解消や、宗教における赦しの契機について、「贈与としての治癒・救済」という視点から考察してみたい。
 

イベントの詳細は主催者ウェブページをご覧ください。
http://www.human.nagoya-u.ac.jp/lab/phil/forum/#s2

 
<関連記事>
舟木徹男さんが暁烏敏賞を受賞
 

新企画:時事ニュースと歴史「マレーシア・デモ 」

 

京アカ・ニコ生放送の新企画がスタートしました!

この番組では、京都アカデメイア塾の中島啓勝さんが、毎回注目のトピックをとり上げ解説していきます。

今回のトピックは「マレーシア・デモ」
2015年8月29日に始まったマレーシアの首相辞任デモ<ブルシ 4.0>とは? マレーシアと日本との以外な関係から国内の安保法案反対デモまで、国内のテレビ・新聞だけではわからない、政治状況や歴史を踏まえて解説します。

出演:
中島啓勝
浅野直樹

<参考記事>
マレーシアのデモ、警察との衝突回避/朝日新聞,15.08.30
 


【京都アカデメイア塾】は、NPO法人 京都アカデメイアが運営する学習塾です。ノマド・スタイルで学ぶ、まったく新しい教養塾です。

【京都アカデメイア塾】 時事ニュースと歴史/YouTube

【京都アカデメイア塾】の「時事ニュースと歴史」受講お申し込み受付!
詳しくはこちらをご覧ください。
http://kyoto-academeia.sakura.ne.jp/…
初回無料体験実施中です。

 

カール・シュミット『パルチザンの理論』:「正しい戦争」はあるのか?

大窪善人
 


パルチザンの理論

筑摩書房(2025年01月27日)

 

人類の歴史は、戦争の歴史であるとも言われます。では、「戦争」とは何なのか。どんな戦争もそれ自体”悪”なのか。それとも、戦争には”正しい戦争”と”間違った戦争”とがあるのか…。

本書は、ドイツの憲法学者・政治学者であるシュミットの書(1963年)です。パルチザンという新しい戦闘形態の考察を通じて、戦争観の歴史的な変遷が浮かび上がってきます。

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新装開店した丸善 京都本店に行ってきました

大窪善人
 

先日21日に、10年ぶりにオープンした丸善 京都本店に行ってきました。

京都における丸善は、1872年(明治5年)に「京都支店(丸屋善吉店)」として開設され、その後一度閉店した後、1907年(明治40年)に三条通麩屋町に再開設されました。

http://www.junkudo.co.jp/mj/news/detail.php?news_id=77

丸善は、梶井基次郎の小説にも登場することで有名で、2005年に閉店した時には、小説の内容にちなんでお客さんが”レモン”を置いていったそうです。

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リポート: 「やっぱり知りたい!京都学派」 第2回「京都学派と哲学」を開催しました

 
大好評の「やっぱり知りたい!京都学派」/中島啓勝 (京都アカデメイア塾×GACCOH)の第2回を開催しました。

告知エントリ

第2回のテーマは”京都学派と哲学”。西田幾多郎や「京都学派」のメンバーが、現実政治の変容とどのように関わって行ってしまうのか、というのが今回の話です。

講師は中島啓勝さん。西田の難解な哲学も、ユーモアを交えながら解説します。

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ナビゲーター:中島啓勝 氏

 

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