おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

小川勝『東京オリンピック』:大義なき五輪にしないためには

大窪善人


 
リオオリンピックが無事閉会し、いよいよ関心は2020年の東京オリンピックへ向かいつつあります。しかし、その一方で、新国立競技場の問題や公式エンブレム問題、裏金疑惑など、東京五輪の暗いニュースが次々と明るみになりました。なぜこんなことになってしまったのでしょうか?
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見田宗介『宮沢賢治』:「銀河鉄道」はどこに行くのか?

大窪善人


宮沢賢治 : 存在の祭りの中へ

岩波書店(2023年01月05日)

 

夏になると観たくなる映画や、読みたくなる小説があります。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』もそのひとつです。「ケンタウル祭」「プリオシン海岸」「サウザンクロス」… 幻想的なイメージや寓話的なエピソードが、碁石のように散りばめられているみたいで、気に入っています。

しかし、賢治の作品が多くの人を惹きつけるのは、どうしてなのでしょうか?
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堀内進之介 『感情で釣られる人々』:カモられないための戦略とは?

大窪善人


 
ポケモンGOと都知事選

先日日本でも配信が始まったスマートフォン・ゲームアプリ「ポケモンGO」。またたくまに社会現象を巻き起こしており、22日のニューヨーク・タイムズによると、配信初日だけで国内で1000万人の人がアプリをダウンロードしたといいます。東京に住んでいる人のほとんどがポケモンで遊んでいる、と喩えると規模の大きさがわかります。

都知事選の候補も、ポケモンGOの影響力を無視できなかったようです。ある候補者は街頭で、「ポケモンを探しに外に出たついでに(?)投票にも行ってほしい」と呼びかけたほど。完全に話題をポケモンに持って行かれた格好です。
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ジジェク『大義を忘れるな』:「他者」に背いて他者を救う

大窪善人


 
非常識な友情?

本書はスロヴェニア出身の哲学者 スラヴィオ・ジジェクの著作で、内容は、現在グローバルに展開する資本主義、先進諸国で行き詰まりをみせる民主主義の問題について、毛沢東からロベルピエール、スターリン、チェ・ゲバラなどの革命家、そして、フロイト・ラカンやマルクス、ヘーゲル、ハイデガーといった名だたる思想家・哲学者の議論を、彼独特のスリリングな語り口でもって、批判的に吟味しながら検討していきます。

ところで本書にはユニークな謝辞が添えられています。
おもしろいのでそのまま引用しておきます。
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高橋哲哉『沖縄の米軍基地』:哲学的な側面から考える

大窪善人


 

今年4月に沖縄県うるま市で発生した女性殺害遺棄事件。後日、在沖米軍関係者が逮捕されたのを受けて、改めて沖縄の米軍基地の問題に注目が集まっています。

「米軍よりも日本人による犯罪の方がずっと多い」といった声もあるようですが、しかし、事件への注目がもっている象徴的な意味を見過ごしています。ほんとうの問題の核心は、「沖縄に米軍基地が存在する」ということ、これでしょう。

翁長県政の誕生と「オール沖縄」で米軍基地反対の運動が高まるなか出版されたこの本は、沖縄の声に応える形で、在沖米軍基地の県外移設を主張します。なぜ基地を本土が引き受けねばならないのか、そして現実的に可能なのかなど、議論には非常に説得力があります。

ところで、高橋さんは哲学者J.デリダの研究者として有名な方で、本の中でもたびたびデリダの名が出てくるのですが、あくまでも政治的な議論に禁欲されているという印象です。ですが、内容をより深く理解するためにも、今回はあえて哲学的な側面から考えてみることにしましょう。

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鷲田清一『パラレルな知性』:本当に信頼される専門家とは?

大窪善人


パラレルな知性

晶文社(2013年10月18日)

 

5年前の3月11日の東日本大震災と原発事故は科学者・専門家に対する信頼を打ち砕く出来事でもありました。またその後の「反知性主義」的な風潮の広がりの底流にも専門家不信があるように感じます。

失われた信頼はどうやって取り戻すことができるのか。そのヒントは、専門家と市民とが協力しあう「パラレルな知性」にあると鷲田さんは言います。

専門家と市民との理想的な関係について、次のようなエピソードを紹介しています。

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北条かや『本当は結婚したくないのだ症候群』の書評をアップしました

浅野です。

 

2016年は毎月新刊本の書評をアップできたらなと思っています。1月の新刊本からは、北条かや『本当は結婚したくないのだ症候群』を選びました。どこまで理解できたか甚だ心もとないのですが、がんばって書いたので、よろしければ以下のリンク先から読んでみてください。

 

京都アカデメイア書評:本当は結婚したくないのだ症候群

カール・シュミット『パルチザンの理論』:「正しい戦争」はあるのか?

大窪善人
 


パルチザンの理論

筑摩書房(1996年03月27日)

 

人類の歴史は、戦争の歴史であるとも言われます。では、「戦争」とは何なのか。どんな戦争もそれ自体”悪”なのか。それとも、戦争には”正しい戦争”と”間違った戦争”とがあるのか…。

本書は、ドイツの憲法学者・政治学者であるシュミットの書(1963年)です。パルチザンという新しい戦闘形態の考察を通じて、戦争観の歴史的な変遷が浮かび上がってきます。

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末木文美士『反・仏教学―仏教VS.倫理』:仏教から社会倫理は導けない?

大窪善人
 


反・仏教学 : 仏教vs.倫理

筑摩書房(2013年04月03日)

 

先日の記事でも紹介しましたが、宗教者や宗教団体が、原発や憲法などの、公共的な問題について発言する機会が増えてきているような印象を受けます。

たとえば、
九州電力川内原子力発電所の再稼動に関する声明-いのちは生きる場所を失っては生きられない/東本願寺

公明党の支持母体である創価学会でも政治的な声が高まっているということで大きなニュースになりました。

公明党“板挟み” 首相の70年談話で創価学会「安保反対」が加速/日刊ゲンダイ

さて、さしあたりこのエントリで考えたいことは、それぞれの政治的な争点の中身ではなくて(それぞれの立場からさまざまな意見があると思います)、宗教者や団体が公共的な意見を表明することの意味についてです。

宗教者はときとして、市民というよりむしろ”宗教者”として公共圏に現れることがあります。その場合、彼(女)は、自分が持っている宗教心や信仰にもとづいた意見を求められることになります。そこでポイントになるのは、宗教的な信仰から、それぞれのテーマに対する”主張”と”理由”を提示できるかどうか、です。

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